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病室の隅っこで窓の外を見るだけの生活は、ずいぶんと退屈だった。
幸い足は無事だったものの、体の痛みはまだ消えず歩くことができない。木の枝に着いた葉っぱを数えることも、最近はものの数分で終わってしまうのだ。かといって、それ以外に見るものなど何もない。
ちらり、と視線を中にずらすと、外よりは少し豪華な花束が目に入る。入院してすぐに、クラスメイトと先生が私にくれたものだ。
大小さまざまな花が所狭しとまとめられているそれは、だが色が無いせいで同じようにしか見えなかった。今度誰か来てくれたら、どれがどの花なのか聞いてみようかな。いや、みんな忙しいだろうし、もしかしたら来てくれないかも。
花束の真ん中に書かれた、「みんなで卒業式やろうね!」の文字。それを見ながら、私は強く自分の手を握りしめた。退院が卒業式に間に合わないことは、すでに病院の先生から聞かされていたから。
「はーあ、、、、つまんないなぁ、、」
窓の外、備え付けられたテレビの奥。
夜に輝く星空さえ、私の目にはどれも同じにしか見えなかった。家では熱心になってやっていたお絵かきも、今ではクレヨンを持つことさえしない。色というのはそれほどまでに、重要な役割を持つのだと失ってから気づいた。
時計とにらめっこしながら、時間が過ぎるのを待つ。そういえば、そろそろいつもの検査の時間だ。
そう思った矢先に病室の扉がガラガラと音を立てる。私はその音を聞いて、機械的に体を起こす作業に入った。
「あら、そのままでもいいわよ。楽にしなさい」
その言葉が母の言葉だと気づくまでに、少し時間がかかった。
「あ、お母さん!今日は早いんだね」
「仕事が早く終わってね。ほら、真白の好きなイチゴ買ってきたわよ」
そう言ってテーブルに置かれたイチゴは、食欲の欠片もない灰色だった。それでも母が買ってきてくれただけで、なんでもおいしく思えてしまう。
これは、例えば風邪で寝込んでしまった時と同じなのだろう。誰かが隣にいるだけで、とても満たされた気分になる。
それがとても嬉しくて同時にどこか悲しくなってしまう。
、、、今目の前にいる人は、それを与えてくれる人がいないのだから。
母親の顔はとてもやつれ、誰が見ても疲れているように見える。どこか隠そうとしている様子もあるが、私には、なぜだかその人の感情がよくわかるようになっていた。
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