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「、、、ああ、そうか」
なんだ、簡単なことだ。
きっと「私」は、私のままじゃダメなんだろう。
ただでさえ普通じゃないんだ。人並みに行動したって、誰にも届きやしない。
今回がいい例だ。精一杯頑張ったって、自分にできないことはできない。
そう思い始めた時には、すっかり息が整っていた。ちょうど横を流れる川の水面が、私の体を鏡みたいに映し出している。
自分が自分でいることにこだわっているから、それに対する好き嫌いが生まれる。
食べ物とか動物にとかにも言い換えられるだろう。「ここが嫌いだ」「そういうところがいいんじゃん!」などど。
それなら、、いっそ、、
「、、、、ただいま~!」
何食わぬ顔で玄関を開ける。歩き疲れた体はその分のカロリーを欲し、そこにちょうど漂うカレーのにおいがさらにお腹を空かせた。
「あらおかえり。ちょっと大丈夫だったの?」
「え?、、何が?」
「学校の先生から連絡があって、『カバンも持たず突然帰った』って言うから、、母さん心配したのよ?」
「あー、、、ごめんごめん。今日病院の検査の日だと思ってて焦っちゃって、、、」
まだ色を失った目のことで病院に行っていることも事実。そしてお母さんが、病院のことについてあまり追及してこないことも知っている。
そうだ。誰かを傷つけないためなら、平然と嘘をついたっていいじゃないか。
膝の擦り傷を隠しながら、私は台所に向かう。涙でくしゃくしゃになった制服の袖もちゃんと戻して。
「あら、なんだかいつもより元気ね。検査の結果がよかったの?」
「え?そうかなぁ」
自分で作った笑顔は、学校で友達と笑うよりも疲れなかった。
それはいったいなんの皮肉か。けどまあ、これから頻繁に使うんだからそのほうがいいか。
そうして何事もなかったように、私はその日一日を過ごした。
この体が誰かの普通まで届くように。
この心が誰かからの期待に押しつぶされないように。
、、、私はその日から、自分に鍵をかけた。
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