間章

13/13

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
「、、、ああ、そうか」 なんだ、簡単なことだ。 きっと「私」は、私のままじゃダメなんだろう。 ただでさえ普通じゃないんだ。人並みに行動したって、誰にも届きやしない。 今回がいい例だ。精一杯頑張ったって、自分にできないことはできない。 そう思い始めた時には、すっかり息が整っていた。ちょうど横を流れる川の水面が、私の体を鏡みたいに映し出している。 自分が自分でいることにこだわっているから、それに対する好き嫌いが生まれる。 食べ物とか動物にとかにも言い換えられるだろう。「ここが嫌いだ」「そういうところがいいんじゃん!」などど。 それなら、、いっそ、、 「、、、、ただいま~!」 何食わぬ顔で玄関を開ける。歩き疲れた体はその分のカロリーを欲し、そこにちょうど漂うカレーのにおいがさらにお腹を空かせた。 「あらおかえり。ちょっと大丈夫だったの?」 「え?、、何が?」 「学校の先生から連絡があって、『カバンも持たず突然帰った』って言うから、、母さん心配したのよ?」 「あー、、、ごめんごめん。今日病院の検査の日だと思ってて焦っちゃって、、、」 まだ色を失った目のことで病院に行っていることも事実。そしてお母さんが、病院のことについてあまり追及してこないことも知っている。 そうだ。誰かを傷つけないためなら、平然と嘘をついたっていいじゃないか。 膝の擦り傷を隠しながら、私は台所に向かう。涙でくしゃくしゃになった制服の袖もちゃんと戻して。 「あら、なんだかいつもより元気ね。検査の結果がよかったの?」 「え?そうかなぁ」 自分で作った笑顔は、学校で友達と笑うよりも疲れなかった。 それはいったいなんの皮肉か。けどまあ、これから頻繁に使うんだからそのほうがいいか。 そうして何事もなかったように、私はその日一日を過ごした。 この体が誰かの普通まで届くように。 この心が誰かからの期待に押しつぶされないように。 、、、私はその日から、自分(わたし)に鍵をかけた。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加