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「うぉー!すっげぇ!」
私たちの住んでいる地域から、電車を乗り継いで約一時間ほど。そこにはビルの一つも建っていない、私にとって懐かしい空間があった。
「なぁ優花!さっそく泳ぎにいこう!」
「こらこら、遊びにきた訳じゃないでしょう?」
そう言って優花は落ち着いているが、どこかキョロキョロと辺りを気にするそぶりをしている。多分優花も初めてのことで興奮しているのだろう。そう思うと、なんだか妙に笑えてくる。
「ちょ、お前ら早すぎだろ………少しはこっちのことも考えてくれ」
「あれ、『重い機材は俺たちが持つから』って言ったのは誰だっけ~?」
「俺たちのなかに入ってないのは1年だけだ!お前は持てよ!」
少し後ろを歩いていた先輩たちも合流し、これで映画研究部の全員が集まった。3年生であり部長の潤さんと、副部長の美咲さん、博人さん。一個上の先輩である海人さん、大樹さんはすでに機材によって意気消沈していて、その二人と同じ2年生の理子さんが心配している。
「え~?か弱い女の子に重いもの持たせるつもり~?」
「みんなで分担すれば楽勝っつったのお前じゃなかったか?」
「そうだっけ~?」
3年生はみんな仲がよく、また全員気さくな人のため部活全体の雰囲気が明るい。まだ入って数ヶ月しか経っていない私たちでも、自然とその輪の中に入れるくらいには。
「ほら海人……海人のホームだよ…?」
「いや俺泳げねぇし……今それどこじゃねぇ」
砂浜に手をつくと、猛烈な暑さを感じる。ただでさえ今年は例年に比べて気温が高いらしい。立っているだけでも汗が吹き荒れるのに、この炎天下の中機材を運んでくれた先輩方には頭が上がらない。
「ほらほら、さっそく準備始めるぞー!」
「うぇぇ……まじっすか…?」
カメラ用の脚立を杖がわりにする大樹さんと対象に、潤さんは汗一つかくことなくピンピンしていた。
「元気だねぇ、流石田舎者!」
「その呼び方やめろバカ。お前のほうが100倍元気だろ」
「そりゃーなにもしてないからね。ね、真白ちゃん!」
突然話題を振られて、私は肩を上げる。美咲さんは誰とも壁を作らず接してくれて、その上周りをよく見ている。きっと私がどこか元気がないと感じて、話に混ぜてくれたのだろう。
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