第2章 クランク・イン

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動揺しながらもちらりと視線を上げると、再び潤さんと目があった。すると潤さんは、にっこりと笑顔を浮かべながらこくりと頷いた。まるで私に、「大丈夫だよ」と伝えたかったかのように。 先輩は………なぜか私のお母さんと知り合いらしかった。部活体験の時にその話を聞いたためそれが「潤さんとお母さん」なのか「潤さんの母親とお母さん」なのか詳しく聞いてはいないが、そのため、私が色を見えていないこともお母さんから聞いていたということだ。 それでしかも私が潤さんと同じ部活に入るなんて言い出したものだから、何か裏で悪い陰謀が働いているのではないかとすら錯覚した。いやまあそれよりも、娘のコンプレックスを問答無用で暴露した母親にも問題があると思うのだが……… 「はぁ………」 最初は怪しいと思っていたが、母親も「私が言ったの、ごめんなさい!」と言っていたし、疑うより信じたほうがずっと心が軽い。色が見えないと分かってても潤さんの接し方はみんなと変わらないし、みんなに言いふらす素振りもない。 それになんでか、この人は信じられると思った。 「私も、やりたいです」 「…………よし、じゃあ決まりだな」 そう言うと潤さんは鞄の中からプリントを取り出し、夏休みの計画を立て始めた。1ヶ月ほどある休みのなかで一週間ほどと目処を立て、みんなの用事を擦り合わせていく。私の用事の少なさもさることながら、個人的には優花の用事が意外と少ないところが意外だった。 雰囲気がお嬢様だから、てっきり旅行にでも行くのかと……。 「………よし、じゃあこれを先生に言って来るからちょっと待っててくれ。意見が通っても変更とかは出来るから、用事ができたら知らせてくれれば大丈夫だからな」 「とか言って、オーケー出なかった面白いっすよね」 「冗談でもそんなこと言わないでくれ……まああの先生だし、大丈夫だろ」 念のため博人さんも連れて、二人で教室を出ていく。その背中を見送りながら、私は三年生で一人取り残された美咲さんにこっそりと近づいた。 「あの………この部活の先生って?」 「あー、そういえば紹介してなかったね。てか今年入って一回も顔だしてないわあの人」 「えぇ!?」 その言葉に、隣で話を聞いていた優花が驚きの声をあげる。そうか、吹奏楽部では先生が指揮したりしてるもんな。てか部活は先生が中心になるのが普通か。
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