第2章 クランク・イン

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勉強……? 学生の本分とも言えるその言葉。だが会話の前後関係が一致していないような気がして妙に引っかかる。 …………あ、そうだ。 私たちは入学してばかりで気にする事もなかったが、目の前の先輩たちは、もう今年度で卒業することになる。 当然部活だけに取り組むなんて許されることではない。就職か進学か。どちらかを決めた上でどこを目指すか。テストの点数一つにしても将来に関わってくるのだから、疎かになんて出来ないだろう。 そんなことを考えていると、視界の端で顔を押さえる2年生方の姿があった。 ……?あなたたちはまだ関係ないだろう………? 「そうそう。赤点なんて取ったら、補習のせいで部活出られないからなー」 …………ん? その言葉に、背筋が凍りついた。 クーラーが効きすぎているのだろうか。もう夏に入ったというのに、なんとも言えない寒気が体を襲う。 どうやら恵もその症状にかかっているようで、小刻みに足が震えているのが遠目からでも分かった。 「言っておくけど、赤点取ったら今回の件は不参加になるからな?勉強が第一だ。………分かったか大樹?」 「うぅぅ………はーい……」 「だ、大丈夫か?もう授業中寝るなよ?」 「い、一緒に……勉強しよ……?」 ここにいる2年生たちは一体どんな経験をしたのだろうか。 どこか恐怖のようなものを感じとりながら、いや、他の人を気にしている余裕はない!と体に力を入れる。 「「お願い優花!勉強教えて!」」 「………おいおい、お前らもかよ……」 私と恵の悲痛な叫びは、外で響きだしたセミの声と見事なハーモニーを作り出した。 前期のテストまであと2週間………優花だけを頼りに、なんとか赤点だけは阻止しなければ。 こうして私たちの高校最初の夏は、なんとも不安な状態で始まりだしたのだった。
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