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「んー……やっぱりまだ少し固いかな?」
太陽の光とはまた違う熱さを顔に感じる。途中でセリフを間違えたりしながらも最後まで言い切ると、博人さんが手持ち式のビデオカメラから目を離して言った。
「で、ですよね……」
映画研究部恒例の、早口ゲーム。
ニュースの原稿のようなものを用意し、それをどれだけ早く正確に言えるかを競うゲームで、私はいつも最下位を取っていた。
いつもなら「頑張りましょう」で終わるのだが、今は部活強化期間。罰ゲームとして、それはそれは甘ったるい少女のセリフを言わせられたのだ。
「相手が悪いんじゃない?こんなのに告白とか罰ゲームでも可哀想だって」
「さらっと俺をバカにするのやめてもらっていいですか?」
「だって男子最下位じゃんあんた」
「言い方!?確かにこのゲームでは最下位でしたけど色々語弊がありますよそれ!」
そう叫ぶ大樹さんでさえ、私より2分近く早い。いくら歳の差、経験の差があるといえども、こうも明確に違いが見えるとなかなか滅入るものがあった。
……せめてもうちょっと漢字が多ければ、もしかしたら恵には勝てたかもしれないのに。
「真白はもうちょっと、息をたくさん吸ったほうがいいな。ハキハキするし、滑舌も良くなる」
部員たち(主に恵と優花)からの冷やかしを遮って、潤さんがアドバイスをくれる。潤さんは知識が豊富で、機材のことから演技のことまで教えてくれる。
だが今はその言葉を理解するよりも、彼が両手一杯に持っているものが気になってしょうがなかった。
「おースイカだー!潤さんそれどうしたんですかそれ」
「海の家の店長さんから差し入れ。せっかくだし休憩するぞー」
「やったー!」
そう言うとみんなは、お礼も兼ねて海の家の中に向かった。一人くらい海へと直行しそうな感じだったが、流石にそこまでの元気は余っていないようだ。
海の家の中はとても広く、時折流れてくる潮風も相まって心地がいい。特に席の指定はなかったのだが、みんなは自然と一ヶ所に集まった。
「んー、おいしい!」
「夏って感じがするわよねぇ……この光景、本でしか見たことないけど」
外の見える場所に移動し話す二人の後ろを、私は口のつけていないスイカの切れはしを持ちながら横切る。私も疲れたのだろうか、なんだか今は一人になりたかった。
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