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「…………色が見えないって、どんな感じ?」
「え?」
「いやごめん、悪気があるわけじゃないんだけどさ」
そういうと潤さんは立ち上がって、両手を一つの四角に変えた。
「別の視点、見方ってすごい大事だと思うんだよね。それを誰かから教えられることで、自分のもの以外の考えが分かる。分かるっていうことは、それをものにできて自分の世界に幅が広がるってことだ。、、、もちろん、それを分かろうとしない人だっているけど、、」
そう言いながら、両手で作ったカメラを少しずつ上に上げていく。私には買いたての画用紙にしか見えないこの空は、彼にはどんな風に見えているのだろうか。その答えは、今はまだ分からない。
「この世界ってさ、案外いいバランスしてると思わない?そりゃ確かに、真白は普通の人と比べるとちょっと複雑だけどさ。逆にみんながみんな同じ考えや状態だったら、結局独りぼっちと変わんないんじゃないかなって思うんだ。何言っても共感しか得られないんだから」
そんな言葉で救われるなら、とうの昔にすべてが解決している。誰でも言えるようなそんな言葉は、だがなぜか、私の心にすんなりと入ってくるように思えた。
「だから一人で悩んだり、焦らなくても大丈夫。お前は一人じゃないんだから」
その言葉に、私は何も言い返せなかった。人前で明るく振舞うのはできるようになっていたはずなのに、なぜか笑顔の一つもできやしない。それどころか目頭が熱くなるのを感じて、私はそっと下を向く。
「ああ、ごめんね?何も聞かないで勝手に長々話しちゃって」
「い、いえ、、」
正直、潤さんがこのような話をするのは想像もしていなかった。部員たちといるときはいじられているか元から出ていた話題について話すかだし、時には聞くことに徹している姿も珍しくはない。
そもそも自分の持っている裏の話なんて、本来人に言えるようなものではないのだ。明確な解決方法なんてないし、それで自分が不幸になったのに誰かに伝染させるのも忍びない。それが出会って数か月の人ならなおさらだ。
でも、、、
「少し楽になりました。ありがとうございます」
涙があふれないように目をつぶって、私はようやく笑顔になれた。どうしてか潤さんの言葉は、心の壁をすり抜けて私に近づいてくれる。私のことを知ろうとしてくれている。そう感じた。
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