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「、、、、そっか」
潤さんは優しく微笑んだが、なぜか少し悲しそうだった。涙をこらえている姿が、何か我慢している風に見えたのだろうか。そういえば私が悩んでいるってことも知っていたし、そうゆうのに敏感なのかもしれない。
そう思うとどうしてか、自分と潤さんの姿が重なって見えた。
「おっとぉー?こんなところで何してるの?」
その言葉と同時に、背中に重みが加わる。自慢ではないが運動という運動は学校の途中の坂を上ることだけしかしてこなかった私の体は、それだけで根元から悲鳴を上げた。
「うわ、なんか酔っ払いみたいなのが来た」
「誰が酔っ払いだ!まだ飲んだことすらないわ!」
「お前の歳で飲んでるほうが問題だろうが」
重みの正体、、美咲さんに避けてもらうとそこにはいつの間にか部員がみんな集まっていた。短いように思えただけで実際には少し時間がたっていたのだろう。大きな皿一杯に敷き詰められたスイカは私に持っていた一個だけしか残っておらず、ほんの少しみんなの影が伸びていた。
「あーあ、邪魔しないほうがいいって言ったのに、、」
「しょうがないじゃん。一年生二人がすごいソワソワしてたんだもん」
「ちょ、美咲さん!?私はそんなことしてないですよ」
「いや恵はしてたよ。丁寧に口に手を当てながら」
みんながいる場所は暖かくて、中学校の時とはまるで正反対だ。
適度に自分のことをさらけ出しながら、それでいてお互いを尊重している。
だが私だけ、自分と周りに嘘をついてその中に入っている。本当のことを言って嫌われたくない、けど嘘をつくのは少し辛い。
潤さんは私が色を見れないことを知っても、その接し方を変えなかった。もしかしたらこの人たちも、案外すぐに受け入れてくれるかもしれない。私のことを仲間外れにしないかもしれない、なんて。
、、、そんな弱い部分が出るようになったのは、潤さんと出会ってからだった。
「で、実際何話してたんですか?」
「うわ、、海人デリカシーない、、」
「別に、台本読みの練習してたんだよ。大樹の時とは違って上手かったぞ?」
「またその話、、てか聞いてたんすか先輩!?」
いつもより一段とうるさい蝉の声は、だが笑い声にかき消されて何も聞こえない。肌を刺すような夏の暑さも、今はなぜか気にならない。今まで悩んでいたことでさえも、たった数分で溶けて消えていった。
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