クランク・イン 2

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「おーい、そろそろ店閉めるぞー!」 「え、もうそんな時間ですか?」 店の奥から力強い声が響いて、慌てて時計を確認する。日が長くなったため気が付かなかったが、もういつもなら学校が終わって部活も終わる時間だった。 「今日は初日だったし疲れただろ?機材は置いて行ってもいいから、自分の荷物だけ忘れないようにしてくれよ」 「今日、、あまり練習してない、、」 「いや、みんな軽々こなしてたけど、いつもの練習より多めにやったよ?この調子ならもう少し増やしてもいいかもね」 すでに準備を終えたのか、肩に鞄をかけた博人さんが言う。そういえば今日は博人さんが中心になっていて、部長である潤さんはあまり見なかった気がした。 「そうそう。ちゃんと収穫もあったし、夏はまだまだこれからだからな」 「、、、あー」 店長さんが作業のため顔を出しながらそう言うと、突然潤さんの顔が曇りだす。そのことに気づいたのはどうやら私だけのようで、どうしたんですか?というより先に会話が進んでいった。 「収穫?何の話ですか?」 「なんだ潤。まだ言ってなかったのか?」 「あー、、はい」 分かりやすく目をそらしなら、潤さんは右の頬を掻いた。その弱々しい声に何かを感じ取ったのか、みんなの手がピタッと止まる。言葉にできない異様な緊張が、澄んだ空気に充満した。 「実は、、俺たちが映画を作ったら介護施設で上映会をすることになった」 ほんの一瞬、時間が止まった。 少ししてようやく頭が言葉の意味を理解し始めて、各々が驚嘆の声を上げる。 「いやー、実はこの人の奥さんが介護施設のほうで働いててな。前に一回そこで映画を上映たことがあってだな、、」 肩に腕を回して豪快に笑う店長さんとは対称的に、潤さんはうつろな目で説明を続ける。大雑把に、映画を作ろうという目標は夏休み前に計画をしていた。しかしそれが誰かの目に入るとなるとだいぶ話が変わってくる。流石にこのことは誰も予想していなかったのだろう、あの美咲さんでさえ、しばらく声を出せずにいた。 「と、言うわけで!明日から本格的に進めていくぞみんな覚悟しろー」 なんだか無理やりまとめられたせいで、まだ不安と緊張が抜けきらない。夏休み一日目の帰りの電車は、人が変わったかのようにみんな静かだった。
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