第1章 色彩

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一度ネガティブになってしまったら、簡単に戻ることはできない。 それが私の悪い癖で、つい考えたくないことまで考えてしまう。たかが学校の入学式だというのに、これだと先が思いやられるな、、、 体育館には、母親の姿は見えなかった。私は人ごみの中から誰かを見つけるというのは苦手で、もしかしたら見逃しただけで本当はいるのかもしれない。だがそれを確認するすべは、今の私は持ち合わせていなかった。 そうこうしているうちに始まった入学式は、想像していたよりもずっと足早に過ぎていった。周りと一拍遅れて起立し、一拍遅れて礼をする。体育館が半分埋まるほど新入生がいたのであまり目立ちはしなかっただろうが、たったそれだけでとても惨めな気持ちになった。 無機質な壁、冷たい椅子。壇上に上がって話している誰かの声も耳に入らないまま、ただただ時間だけが過ぎていった。 「(ああ、、、またか)」 私は昔から、空気を読む、ということに慣れすぎていた。もはやそれは特殊能力のようなもので、一度スイッチが入ってしまうと、人の感情や雰囲気を敏感に感じ取ってしまうようで。 しかもその分、大切なあるものを奪っていってしまったのだから神様は残酷だ。それならいっそ、私は普通の人として生まれたかった。 「、、、、ん?」 白黒の世界の中でただ一つ。今まで目もくれなかった体育館の一隅にどこかぬくもりを感じた。「めんどくさい」という感情が渦巻いているこの空間に、心の底から楽しんでいる感情を見つけた。それはどこか懐かしさすら覚えて、ついそちらのほうを凝視してしまう。 「(あの列は、、あ、生徒会?)」 よく見ると全員が座っている中で、十人もいかない人たちだけが一糸乱れぬ服装で立っていた。その中に一人、見覚えのある顔立ちの人を一人見つける。今朝駅の中で出会った、あの先輩だった。 「(あの人、生徒会だったんだ、、、) 見知った人を見かけるだけで、人の心はこうも簡単に安心する。その温かさに少し落ち着いてくしゃくしゃになった学校のしおりを開く。今やってる校長の話が終われば、ようやく入学式から解放されるようだ。 「(朝はあんなに楽しみだったのにな、、、ちゃんと明るくいかないと)」
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