クランク・イン 3

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「くくっ、、、感動系ねぇ」 そんなしみじみとした回想は、複数の笑い声で遮られた。なんだか今日はみんなとかみ合わない日だ。なんで笑っているのかわからないで恵たちと顔を見合わせると、潤さんが呆れながら口を開く。 「あのなぁ、、、言っておくが物語考えたの俺じゃないぞ?その時は先輩が全部やってくれて、俺は役者として数分出ただけだからな?」 「えぇーなんだつまんないのー、、、」 「あたりまえだろ、なんだ?たまにはお前が考えるか?」 「無理無理。原稿用紙一枚の読書感想文ですら書けないもん」 「それは流石にマズいんじゃないかな、、?」 三年生の会話に、今度は優花と顔を見合わせる。話の流れを聞くに、潤さんはいつも作っている映像のストーリーを考えているということだろうか。ただでさえ部長という役職についていて、カメラや照明といったものを触っている姿も珍しくはない。そのうえ物語まで考えているとなると、それはもう人ひとりでできる仕事量じゃないような気がしてならなかった。 、、、でも、そうか。映画を作るならそんな役職も必要なのか。 「あの美咲さん、少しいいですか?」 「ん、どうしたの?いくら頼んでも私の読書感想文は見せないよ?」 「い、いえそうじゃなくて、、」 他の誰にも聞こえないように近づいて話したことが裏目に出たのか、美咲さんは近くに置いてあった自分の鞄を抱きしめながら茶番を繰り広げる。原稿用紙一枚すら書けないといっていたが、もしかして夏休みの宿題で出たのだろうか。それだったらだいぶつらい思いをしそうだけど、、、あ、そういえば私も全然宿題に手を付けていない。まあまだ休みも始まったばかりだし、部活が落ち着いたらやっていけばいいか。 、、、、じゃなくて。 「みなさんがやってきた物語って、全部潤さんが考えていたんですか?」 「ああ、そうだよ。さっき見てもらったように大雑把なジャンル決めはみんなでするけど、どんな役でどんなセリフを言うかは全部潤がやってる」 少し頑張りすぎだと思うけどねー、、と付け加えて、すぐに腕をマクラ代わりにして木のテーブルに俯く。その間際に見せた表情は、いつも笑顔でムードメイカーの役割を持つ美咲さんにしては珍しかった。 「、、、なに?興味ある?」 顔を半分見せながらいたずらっぽく笑う。なんだかすべて見透かされたような気がして、私はすっと目をそらした 。
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