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順調に進んでいたはずの会議も、気がつけば練習時間が圧迫されるほど時間がたっていた。各自それぞれ荷物を置き、真上から私たちを見守る太陽の下へと駆け出していく。私も行かなければ、そう思って靴の紐を結び直そうとすると、ふと後ろから肩を掴まれた。
「真白………」
「潤さん?どうしたんですか?」
かがんだままで見上げているせいで、太陽の光が当たる私を見つめる表情がどんなものかさっぱり分からない。目を細めて目を凝らすと、ようやく潤さんが笑っていることに気づいた。
「俺たちの物語。ちゃんと作ってこうな」
その笑顔はまるで無邪気な子どものようで、こんな顔をするんだと驚いた反面、どこか懐かしい感じもして。
霧がかかったような記憶が、頭のなかに浮かんでは消えていく。時々見えるその断面は、なぜか眩しいくらいに色づいていた。
………懐かしい。これはいつの記憶なんだろう。
そこに出てくる私は、中学校より明らかに幼くて。でも上手く思い出せない。無理に思い出そうとすると、あの日の事故のことで頭が一杯になってしまうから。
いつまでたっても黙ったままの私を心配してくれたのか、潤さんは右手を差しのべてくれる。その暖かい手に触れると、どうしてだろう、少しだけ頭の痛みが消えた気がした。
「…………はい!」
潤さんの手に力が入ると、その反動で私の体は立ち上がる。それと同時に色んな感情が押し寄せて、誰にも好かれる自分を作っている余裕もない。
………だけど、なぜかこの人だったら……
ーーー「私」はその日、久しぶりに心から笑った。
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