3人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
だけど、、でも、、、、
それからのことは、あまりよく覚えていない。目が覚めた時には自分の部屋のベットの上にいて、あんなに明るかった空は黒に上書きされていた。まるで俺の人生みたいだ、、そう何かを比喩するのは、昔からの癖だった。
近くに置いてあったスマートフォンの電源をつけると、表示された時間は日付が変わるか変わらないかという時間。我ながらよく眠ったな。
恐らく何も食べていないのだろう。空腹を満たすために手探りで部屋を出て、廊下の電気をつける。母さんは寝ているだろうから、なるべく音を立てないように。
ようやくリビングにたどり着くと、菓子が入っている棚のほうへ向かう。だがその途中で、いつも目にしてしるものになぜか視線がくぎ付けになった。
それは自己主張の激しい、大量のDVDが入ったショーケース。シンプルな色で作られた四角い箱は、今は家にいない父親のものだ。
ふとショーケースの扉を開けて、一枚のDVDを手に取る。それは幼いころから好きだった、特撮ヒーローの映画だった。
昔は単純に、こんなものに憧れていた。
映画監督である父親の影響で見始めた映画、子供だったら必ず通るといっても過言ではないヒーローへの魅力。そんなものが一緒になったら、そりゃ期待ぐらいしてしまうだろう。
自分だっていつか、主人公になれると。
「、、、くっそ、、、」
だからこそ、忘れられなかったのかもしれない。
自分の幸せが幸せだと思っているうちは、また訪れてくれると信じていたから。
目の前が真っ暗になり、その場で膝をつく。これ以上やると父親の大事なものが壊れてしまうとわかっていても、手には自然と力が入ってしまう。
そこまでに一人のために尽くしていた俺の心は、いつの間にか脆くなってしまっていた。
『真白のこと、、よろしくね』
受話器から聞こえた最後の言葉が、嫌に明瞭に頭に残っている。
人は誰かと誰かが支えあっているらしい。じゃあ一人前にもなれていない俺に、一体誰も支えられる?この俺に、何が出来る?
月明かりに照らされながら、俺は一人さまよう。彼女も今、この空を見ているのだろうか。でもそうか、彼女にはこの空の色が見えないのか。
あんなに空の色が好きだと言っていたのに、もう、、、
いっそ今日のすべてが嘘だったらいいのに。ああでもそれでは、彼女が引っ越すことも嘘になってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!