カメラワーク

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休息をとったことで無駄に冴えた頭が、冷たい夜の空気にあてられマイナス方向に進む。いっそ過去に戻ってくれればいいのに。そんな願いとは裏腹に、無慈悲な月はいつも通り傾くのをやめなかった。 ・・・・・ 「お疲れ様ですー、、ってうわ、どうしたその顔」 その日の授業が全て終わり、学校から生徒の数が少しずつ少なくなっていく時間。 部室に入ってくるなり、博人は俺の顔を見て驚嘆の声を上げた。一人だけクラスが違う博人とは今日顔を合わせるのは初めてだったが、やはりこんな反応をするのか。 「なんか寝れなかったんだってー。どうせ徹夜で台本書いてたんでしょ」 「だから違うっての、、、俺はお前と違って早めに終わらせるタイプだ」 「何?数学のプリント見せてって言ったのまだ怒ってるの?」 「ちゃんとやっとけって言ったろ、、」 あくびをひとつ噛みしめながら、時間が進むのを待つ。今日は俺が書いた物語をみんなに見せる日なのだが、一番見てほしい先輩方がなかなか来てくれない。先に美咲と後輩たちには見せたのだが中々に好評だった。だから早く、、、心の隙間を埋めてほしくて。 「お待たせー!いやーごめんね遅くなっちゃって!」 部長の先頭にぞろぞろと先輩が部室に入ってくる。その数は一、二年生の合計を二倍にしても足りないほどで、先ほどまで静かだった教室も一気ににぎやかになった。 「先輩!これ、、」 俺は大事にしまっていた原稿用紙を取り出し部長に渡した。何度も書き直してようやく出来た作品。先輩も待ってましたと言わんばかりに目を輝かせ、すぐにそれを手に取った。 「うん、、、うん!いいんじゃない?前のよりもずっと整ってるし面白い!これならこのまま使っても、いい映画が撮れると思うよ」 「それじゃあ、、!」 今回の作品には、俺は特に力を入れていた。なぜならこれは今までの部活練習用に作る映像とは違い、一般の人たちに見せるように作られるものだったからだ。去年偶然始まった上映会は、だが「形」としては十分。これで俺の作品に、俺の思考に意味が生まれる。 、、、と思っていたのに。 「でも、ごめんね、、、これの映画は作れない」 その言葉はとても冷たく、うるさいほどに賑わっていた部室さえも凍らせた。 なんで、、、?そう聞こうと開いた口は、だがみんなの表情を見た瞬間に動かなくなる。 先輩方の、悲しそうな顔を。
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