カメラワーク

10/11

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
「あ、そうそう。いまさら言うのもあれだけど、潤くんの作品は本当に面白いよ!ただ、、、ちょっと背伸びしてるなって」 「背伸び?」 「うん、、、なんていうんだろう。等身大じゃないっていうか、、、ほら、今年の一番最初に持ってきた原稿、覚えてる?」 「げ、、まあ覚えてますけど、、」 「私はなんだかんだそれが好きだったよ。綺麗で、潤くんの思いがまっすぐに伝わってくる感じ」 衝動に任せて書き綴った、荒削りの物語。作者である自分でさえ記憶の片隅に追いやっていたのだが、まさか先輩が覚えているなんて思ってもいなかった。 けど確かに、自分の思いをそのまま文章にしたのはあの作品だけかもしれない。そのあとから少しずつ、自由を与えられたと同時に何かに追われているような気がしたから。 回り道だって逃げ道だって、どうせ道には変わりない。あっちがよかったなどど後悔するよりも、そこで新しい楽しみを見つけたほうがよっぽど有効的らしい。 なんて、、、今までの俺からはきっと想像もできない思考に気づけるのも、自分とは違う誰かがいてくれたからだ。 これからは色々なものを作って、考えを深めていこう。いろいろな人を尊重して、発想を鍛えていこう。そして、、、、 ーーーーそれからだいぶ時間がたって、俺は三年生になった。 一個上の先輩方は、卒業式でも泣かずに最後まで笑っていた。何も悔いはない、楽しかった、と。 いつか俺もそんな考えができるようになればいいなと思いながら、改めて制服の袖に腕を通す。一か月あった春休みは案外あっという間に終わりを迎え、生活リズムの狂った体は眠気を抑えきれない。 それでも今日は生徒会の準備で少し早く学校に行かなければいけないのだ。早々に着替え終えると、二年間ずっと使ってきたカバンを持つ。 「ああ、やっべ、、」 いざ部屋を出ようとしたとき、つい癖で二年生のネクタイをしていたことに気づいた。この学校のネクタイは学年によって色で分けられているのだ。間違ったまま行ったらクラスメイトに笑われてしまう。 「えっとネクタイは、、、、あ」 机の引き出しに入れられた青色のネクタイと一緒に、丁寧に折りたたまれた原稿用紙が目に入る。先輩が好きだと言ってくれた、一番最初の作品。 あの時は内容がイマイチ曖昧で、見直したときは顔が赤くなるくらい恥ずかしくなった。まったくこんな恥ずかしいもの、よく書けたものだ。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加