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映画研究部の部室には似合わない、沈黙が空間を支配する。みんながみんな下を向いているせいで、表情が見えないのがいっそう不安を駆り立てた。
外の風が、古びた窓をノックする。その音にさえ肩を震わせてしまうほど、私は緊張していた。
長い夏はすでに終わり、冷たくなった風は生い茂った葉っぱを赤く染める。色が見えない私ではそれを認識できないのが悲しいが、空を舞う紅葉の形だけでも、充分に秋だと実感させる。
「………うん」
ポツリと呟かれたその声に、私は瞬時に反応する。まだ慣れていないからだろうか、長袖に変わった制服が妙に重く感じられた。
「いいんじゃない?綺麗にまとまってるし全体を通して分かりやすい!」
「背景もちゃんと考えられてていいね……これなら撮影もしやすそう」
三年生からのその言葉。願っていたそれに思わず笑みがこぼれる。
みんなが見ていたのは、私が作った上映会用の台本。夏休みから少しずつ書いていたそれが、昨日やっと、みんなに見せられる形にまで整った。
「この表現とかめっちゃ繊細じゃない?さすが女子って感じ!」
「ああ…そこは潤さんが考えてくれたんですよ。私はただこうゆうのもいいんじゃないかなーって言っただけで…」
「嘘、潤が!?うわぁ………」
そう、実際はほとんどが潤さんが書いたもので、私は本編に関してはあまり携わっていない。けれど構成を練ったり、時には潤さんの家に行き台詞の案を出したりと、様々なことをしてきた。そのせいか1日1日が目まぐるしく進み、気がつくと、もう入学してから半年が経過していた。
「うわってなんだよ……俺はたまに台詞を考えただけで、状況とか心情は全部真白が出してくれたんだ。俺一人でそんなの書けるわけないだろ」
「だよね~、だって潤だし」
美咲さんは相変わらず潤さんをからかいながら、それでいてちゃんと作品を評価してくれていた。美咲さんだけじゃない、他のみんなだって良いと言ってくれて、それが単純に嬉しかった。
「いやいや美咲さん、潤さんだって感動ものちゃんと書くらしいですから……」
口に出してすぐに、「あっ……」と後悔する。誤魔化すように笑いかけるも、それと対照的に潤さんはまるで鬼のような表情をした。
………あんな顔もするんだ……こわ……
「え、そうなの潤?へぇ~……」
「なにそれ見たい見たい!原稿ないの!?」
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