第3章 終わりと、始まりと

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「ねぇよ。大体そんなの作ってないし。なぁ、真白?」 「は、はい……」 机の引き出しに入れてある、一つの原稿用紙。 打ち合わせで潤さんの家にいるときに偶然見えてしまったそれは、だが内容すらまともに教えられていない。本人いわく「人に見せるようなものではない」らしいが、わざわざ残しているということは大事なものに違いない。そう思って口うるさく聞くと、「恋愛ものだ」とポツリと言ってくれた。 ………「誰にも言うなよ」と付け加えて。 「め、恵!優花!どうだった!?」 横からの視線に耐えきれず話を変える。私が作ったら一番見てもらいたかった二人。なにも言わないのがもどかしくて、つい自分から聞いてしまう。 「………あれ?」 動かした目線の先には、いつもと様子が違う二人の姿があった。どちらもまだ下を向いていて、ファイルに入れてまで丁寧に持ってきた原稿用紙は隅がシワになっている。コピーだったからよかったものの、出来ればもう少し丁寧に…… 「って、泣いてる!?なんで!?」 頬を伝うどころか、もはや号泣という表現のほうが正しいほど二人は涙を流していた。初めてみるその表情に、自分がなにか悪いことをしたのかと不安になる。 「だって……真白がこんなに感動するものかけると思ってなくて……」 「そ、それほとんどが潤さんが書いたものだからね?てか恵は私のことどう思ってたの!?」 「真白が……ちゃんと恋愛感情を持っていたなんて……」 「優花は何に感動してるの!?私だってそれくらい……!」 そこまで口にして、再びしまったと口を塞ぐ。どうやら二人は作品の余韻からまだ抜け出せていないようで、その言葉はまるで耳に入っていないようだった。 危ない危ない……なぜか最近、妙に口が軽くなっている気が…… その理由には、正直少し心当たりがある。 最近は昔のことを考えることも少なくなり、物事を前向きに捉えられるようになった。 最近は昔より、ずっと自分のままで笑えるようになった。敵を作らない作った笑顔じゃなくて、心の底からの笑顔で。 そう考え始めたのは、私が台本作りをすると決まったあの日からだった。 自分の存在に意味が出来て、自分がここにいれる理由ができて。 ずっと「今日」が続くよりも、「明日」を求め始めた。変化が起こることに、恐怖を持たなくなった。 それは多分………… …………色の見えないことを知ってもなお、近くにいてくれる人がいたから。
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