第3章 終わりと、始まりと

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なんて、そんなことを考えてしまうくらいに、私の心はいつの間にか満たされていた。 詳しいきっかけだとか、明確な出来事とか、そんなのは関係なく。 「…………よし」 こっそりと視線をずらすと、その先にいた人がちょうど声をあげた。タイミングが良すぎて心臓が飛び出るかと思ったが、どうやら気づかれてはいないようでよかった。 ………あの鬼のような表情も、いつも通りに戻っていて何より…… 「これであとは、実際に撮影するだけだな」 その言葉に、笑っていた先輩方にも、泣いていた恵たちにも、もちろん私にも。 部室にいる全員に、嫌なほどの緊張がまとわりついた。 そう、ここまではあくまで前準備に過ぎない。ここからが本番であり、本来のこの部活の活動であると心に刻む。あちらから提案してきた上映会の日程は、一歩一歩ちゃくちゃくと近づいてきていた。 上映日は、来年の2月。まだ冬にすら入っていないとはいえ、撮影、編集にどれだけ時間がかかるか分からない。準備が出来たらすぐに撮影出きるように、天候や時間軸もなるべく考慮しやすい設定に整えた。………主に潤さんが。 「見てもらって分かる通り、みんなにちゃんと役割を持たせてある。まあそれは当たり前だが、みんながみんな主役だと言うことを忘れるなよ」 「はい!」 決意、集中、歓楽、様々な感情の混じった声は、いつもとはまた違う雰囲気に包まれた学校内に響き渡る。 それと同時に定刻を知らせるチャイムが鳴りだし、続いて、校内放送によるお決まりのセリフが流れ出した。 『五時です。五時です。生徒は速やかに片づけを行い、下校してください』 「なんだ、、もうそんな時間か」 もはや聞きなれたその言葉に、部員たちも急いで荷物をまとめる。あと十数分後には見回りが回ってくるだろう。それまでにここを出なければ面倒だ。 部活終了のあいさつを終え、各々が部室を出ていく。少しくらいなら、教室に行ったりまだ片付けられていない装飾を見て余韻に浸ることだってできるだろう。それなのにみんながそうしないのは、きっといち早く台本の理解を深め、セリフの暗記とキャラ作りをするためだろう。 そのくらいみんなが熱心なことを知っている。
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