第3章 終わりと、始まりと

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恵が頼んでくれたのか、ちゃんと袋の中にはクッキーが人数分入っていた。 聞くところによると、これは私たちのクラスで作り提供したものだったらしい。プレーン、抹茶などをはじめさまざまなバリエーションが用意され、中にはすぐに売り切れしたものもあったとか。 私が食べたものは、チョコチップの入ったクッキー。サクサクした生地としっとりしたチョコレートの歯ごたえがよく、バランスのいい甘さが私をやさしく包み込む。 そこでようやく、私は先週のことを思い出した。まだ台本が出来てなくて焦っていた時、授業中こっそりと流れを考えてるときにふと渡されたアンケート用紙に、「文化祭で出すクッキーの味」と書かれていたことを。 その時に書いたものがちょうど、今私が口にしたものだった。 「、、、今年は残念だったかもしれないけどさ」 クッキーを食べ終えてすぐに、恵がそっと呟く。無言を貫いていた優花も何かを悟ったのか、ちょこんと恵の後ろに回って口元に笑みを浮かべていた。 「来年は三人で見て回ろうよ。ちゃんと出し物も考えてさ」 何も知らない夕焼けが、教室の中に光を差し込ませる。そのせいなのか、それとも別の何かのせいなのか、二人の笑顔がやけに眩しくて見れなかった。 突然目頭が熱を持ち始め、私はそっと目を背ける。 それと同時に、心に少し痛みを感じた。まだ私は本当の自分を隠している。いつか二人にも本当のことを話したい、とも。 「こら、下校時間はとっくに過ぎてるぞー」 「うわ、やっば、、」 タイミングがいいのか悪いのか。見回りにやってきた先生からのその声に、私たちはお互いに顔を見合わせたあとカバンを持って走り出した。 文化祭の片づけがあったとしても、あまり遅くなってしまってはお母さんが心配してしまう。それに、私たち3人にはさっきまでのような悲しい雰囲気は似合わない。 そう思うとなんだか少し恥ずかしくなって、学校を出るまで振り返ることすらしなかった。外の冷たい空気は火照った私たちの体を覚ますのにちょうどよく、二階にいたときよりも上にいた夕日はいつの間にか目の前にまで落ちてきている。
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