終わりと、始まりと 2

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お祭り気分が抜け、文化祭が楽しかったと振り返ることも少なくなってきた頃。 私たちはいつも通り部室に集まり部活動に勤しんでいた。今日は前から決めていた台本読みの日で、各々が台本をまじまじと見ながら言葉を呟いている。 その光景を面白いと思う余裕もない。私はおろか、あの恵でさえ椅子に座りながら足を震わせていた。 二年生も三年生もその緊張感には慣れていないのだろう。テスト勉強や運動と違って、知識と感覚の両方を使ってイメージをすり合わせていくことがどれだけ難しいかは、やったことがある人でないとわからない。 「よっし、時間だな」 唯一一人だけ、台本を手に持たないで時計を凝視していた潤さんの言葉に私は身震いをする。武者震い、といえば聞こえはいいだろうが、夏休みからずっとも欠かさずに練習してきた演技の仕方が、ふとしたときに頭から飛んで行ってしまいそうだ。 三年生の指示で、いったん教室内にある机を数個残して後ろに下げ、残した机で真ん中に大きな円を描く。それが今日の練習の舞台となるようで、私は手のひらに人という字を書きながら席に着いた。それでも平静を保てず横を向くと、隣では恵も高速で人という字を書き続けている。 、、、なんだか、緊張が和らいだ気がしてきた。 「一応台本の中での設定が冬だから、それまでにセリフの暗記と演技を徹底的に仕上げていくぞ。時間があるように見えて、全然余裕はないからな。気を引き締めていけよ」 「「はい!」」 いつもふざけているわけじゃないのがこの部活のいいところだ。 潤さんの言葉、それに一段と大きな声で返事をした美咲さんと博人さんの声に触発されて、私は頭の中で必死に設定を思い出す。 物語全体の流れ、会話の内容、それに伴うキャラクターの心情……ほんの少しとはいえ製作に関わったのだ。単純なものでいいのなら、ある程度中身は把握している。 舞台はとある学校で、男女の恋愛をテーマにした物語。私はそのままの形を提案したが、直線過ぎて見所が少ないこと、そして私たちの経験があまりにも少ない(潤さんはあるらしいが教えてくれなかった)ことからちょっと変わった設定を散りばめている。
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