第1章 色彩

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「そういえばあんた、友達は出来たの?さすがにまだ早いかしら」 「うぐ……うぅ……」 友達どころか、クラスメイトとまだ話すらしていない。どうやら入学式の席はクラス毎に分かれていたようで、私が椅子で雄とを鳴らしたことはほとんど人が知っているようだった。まさかそれだけで何か言われたりはしないだろうが、私はそそくさと逃げるように帰ってきたのだ。道にも迷わず電車にもスムーズに乗って……これが火事場の馬鹿力と言うものだろうか。 「ほら、お昼出来たわよ。ちゃんと手洗いなさいね」 「はーい」 足元を見ながら慎重に足を進める。この家に引っ越してきてからまだ1ヶ月ほどしか経っていないのだが、親もいるしいまいち新しいという実感が湧かなかった。 だからそのぶん、田舎と違う都会の生活には若干戸惑う。家にある扉が、あんなに立て付けの良いものだって知らなかったし…… 「うん、おいしい」 綺麗に焦げ目がついたソーセージを口に頬張りながら、たくさん動かして疲れた頭を休ませた。 私の家ではテレビは滅多に付けないし私自身あまり見ないので、遠くで走る電車の音だけが鼓膜を揺らす。その静寂がなんとも心地よくて、私用に少し濃いめに味付けされた料理も相まってとても落ち着く。 「あ、そうそう。私これから買い物にいくけど何か欲しいものある?」 「え?んー………特に大丈夫!」 「はいはい。もし出掛けるなら鍵はしっかりお願いね?あと危ないことはしないように」 「はーい」 最後の卵焼きを口に放り込みながら返事をする。お母さんは心配性で、家を出るときはいつも同じ事を言うのだ。 私がそんなに危ないことをするように見えるだろうか………まあ確かに扉を思い切り開けたり靴べらを武器に見立てたりはしたが、私だってもう高校生だ。流石に大きな怪我をするようなことはしない。(さっき扉にぶつけた腕はまだ腫れているが) ………なんて、そこがお母さんの優しいとこなんだよな…と、母の暖かい雰囲気を感じとりながら一人で笑う。きっとまだ、色々と心配するところがあるのだろう、と。 「よし……私もやりますか!」 準備ができた母を見送りながら、私はもう一度自室に向かった。
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