終わりと、始まりと 2

5/8
前へ
/135ページ
次へ
状況が飲み込めない………それは恵と優花も同じだったようで、三人で顔を見合わせるも答えが出ない。先輩方に助けを求めようとするも、みんな俯いていて視線が交わることはなかった。 「別に必ず終わらなきゃいけないってわけじゃないだろ。今日だって俺が鍵を開けたんだし、気づかないそっちのほうが問題なんじゃないのか?」 そう言って潤さんは、振り向き様に部室の鍵を取り出した。熊のキーホルダーが付いている一般的なそれは、少し錆び付きながらも太陽の光を反射させる。 その時私は、ふと文化祭の記憶を思いだした。見回りに見つかって、三人で急いで帰ったあの日、私はうっかり鍵を返すのを忘れてしまった。急いで潤さんに伝えると「大丈夫」とだけ言っていたので心配だったが、今まで怒られなかったのはそういうことだったのか。 恐らくこの先生は……この部活のことを良く思ってはいない。 「そんなこと言ってるから進学に支障が出るんだ。……潤、お前まだどこに行くかさえ決まってないだろう」 「………それは……」 「この学校の評価にも関わることだ、優先順位なんて明確だろう」 握りしめられた潤さんの拳は、微かに震えていた。 「まったく下らないことを……この学校全体にも言えるが、去年の三年もたかが部活に熱中しすぎだ。ちゃんと進学出来たからいいものの、無駄な時間を……」 「ーー無駄なんかじゃない!」 机を叩く音と共に、美咲さんが立ち上がる。 その声に驚いたのか、それとも先生の言葉に思うところがあったのか。気がつくとみんなの顔は、一直線に先生の方を見据えていた。 「………美咲?」 「部活のことを無駄とか言わないで!たかがとか言わないで!」 いつも温厚な美咲さんが、声を荒げる姿は初めてみる。だがそう言い返してもおかしくないくらい浴びせられた言葉は酷いものだったし、私を含め、みんなが力を入れてることは痛感している。 ……それなのに私は、見てることしか出来なかった。 「………実際そうだろう。早ければもう1、2ヶ月後には前期入試が始まる。中には推薦で合格してるやつだっているんだぞ?今この時間が、無駄だとは思わないのか?」 「っ………この……!」 衝動に刈られ先生に向かって歩きだした美咲さんの体を、近くにいた博人さんが止める。怒りに身を任せながら「なんで止めるの!?」という美咲さんに、博人さんはただ、「大丈夫、落ち着いて」と優しく諭していた。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加