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「進路のことなら、何とかします。実際にほかの三年生はほぼ決まったようなものですし、俺にも一つ、当てがありますので」
そう言いながら、潤さんは深々と頭を下げた。
「、、、お願いします。これで最後なんです、、」
その声が、静かになった部室に弱く響いた。その言葉で少し冷静さをとりもどした美咲さんは、ハラハラした様子で博人さんと見合っている。
すると博人さんは口に薄い浮かべたあと立ち上がって、同じように頭を下げた。
「先生、僕からもお願いします」
それを筆頭に、部室のあちこちから声が上がる。最後になってしまったが、一年生である私たちも含めて。
確かに将来のことも肝心だ。というか社会に出ることを前提としたなら、学校なんてその前準備に過ぎない。
でもだからこそ、そこでしか学べないこともあるのだと知れた。
誰かといるという幸せが、こうも簡単に実現されるということを知れた。
、、、願わくば、この幸せがもっと続けばいいという感情もこめて。
ほんの数秒の沈黙。
頭を下げながら、時計の針が動く音に耳を傾ける。ほんの一秒がいつもより長い気がして、ただでさえ落ち着かない鼓動を一層早めた。
「、、はぁ、、」
先生は頭の中で葛藤するようにこめかみに手を当てて、そのあとすぐにスーツのポケットからスマホを取り出した。慣れた手つきで、画面をタップしていくと、そのスマホから機械音が鳴り響く。
「、、、、、あーもしもし、聖栄高校の和田というものですが、、」
突然の行動に、みんなは頭を上げて辺りを見渡す。
このタイミングで誰に電話をかけているのか、結局映画作りは続けられるのか。
潤さんも予想外だったようで、片耳を指で塞ぎながら話し込む先生を茫然と見ていた。
一体何の会話をしているのだろうか、先生は自分の身分を明かしたきり「あー」とか「はい」といった相槌しか出さない。それでも、部活のことに関係ないわけがない。みんな固唾をのんで、先生の行動を見守った。
「はい、それでは、、、、映画上映の件はそちらにお任せいたしますので」
「えっ!?」
ふいに発せられたその言葉に、部室中がザワつく。
先生は厳格そうな表情を維持したまま、会話が終わったのか電話を切ってスマホをポケットの中に入れる。その動作が終わるまで、いや終わってもなお、ザワつきが収まることはなかった。
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