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それは目も眩むような、暑い暑い夏の日のことだった。
「あー、ごめんじゅんくん!」
「だいじょーぶ!とってくるね!」
振り向きざまにそう言いながら、公園のフェンスを大きく飛び越えたボールを追いかける。
だが悲しきかな、子供の短い手足では、下り坂になって勢いが増すボールには一生懸命走っても追いつけない。ただまっすぐ転がっているだけなのに、ふとした時に見失ってしまうような気さえした。
ここが滅多に車の通らない、田舎のさらに小道で助かった。辺りを行きかう人には目もくれず、一目散にボールを追っていく。
「あー、、、やっととまった、、、」
坂道が終わり、曲がりくねった歩道を進み、ようやく壁にぶつかってボールが止まるころには、先ほどまでいた公園は見えなくなっていた。
それどころかもしかしたら初めて来たかもしれない場所に、不安と好奇心が押し寄せてくる。
「あれ、、、あの子、、」
辺りをきょろきょろしながら帰り道を辿っていると、黄色い帽子をかぶった少女が、手を土で汚しながら俯いているのが見えた。胸についている名札、帽子についている校章に見覚えがあったこと、そしてよく見えない横顔が、少し悲しそうに見えたこと。
人を守るヒーローにあこがれていた僕がその子に声をかける理由は、それだけで充分だった。
「ねぇ、どうしたの?」
「、、おかあさんからもらったの、、、おとしちゃったの、、、」
彼女は顔を上げずにそう言った。
「じゃあ、ぼくもいっしょにさがしてあげるよ!」
「、、、ほんと?」
「うん!それはどうゆうの?」
「あおいいろの、、、くまさんのかたちしたの!」
「わかった!」
始まりはたった、それだけのこと。
それだけの偶然から芽生えた、僕たちの小さな恋の物語。
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