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「色が見えるようになった?」
「はい、、ほんのたまになんですけど、、」
それはまだ夏休みが終わったばかりで、ようやく台本作りに差し掛かった時のことだった。
ある程度キャラクターの役割を固め、いざ実際にセリフをつけて動かしてみようとした矢先のこと。
部屋の一角を埋めるほどの大きな本棚に手を伸ばしながら、俺はその言葉に目を丸める。
「……それは、いつから?」
冷静さを保ちながら、真白の方に目を向ける。距離の確認に失敗した右手は、敷き詰められたDVDにぶつかってカタリと音を鳴らした。
「実は、最初は体験入部の時で……それからは部活中に数回……」
「まじか、医者にはちゃんと言ったの?」
「はい、、ですが病院で色が見えたことはなくて、お医者さんも特に変化はないと、、」
「そっか、、」
傾いたDVDケースを戻して、ベッドの上に座る。
医者がそう言うのなら素人には分かるわけがない。だが部活中という言葉がどうしても気になって、俺は軽く頭をひねった。
「色が見えたときって部活中だけなの?」
「はい。あ、正確には、、」
そこまで言って、すぐに真白は黙りこくってしまった。どうしたんだと目を合わせようとするも、なぜだか逃げられてしまう。
、、、なんなんだ、一体、、
愛用しているシャーペンを持ちながら、少し離れたテーブルに身を乗り出す。そこには様々な設定やキャラクターの詳細が書かれている紙があって、その中の一枚を手に取った。
「(真白、、、俺の妹役、、か)」
我ながら、未練がましいことをすると笑う。一人っ子の彼女が、俺のことをお兄ちゃんと呼んでいたのはもうずいぶんと前のことだ。それにその呼び方は一年もしないうちに名前に変わったし、彼女にはその記憶がない。例えそんな役柄を演じさせセリフを言わせても、その記憶が戻るとは限らないのに。
でも、そんな矢先に「たまに色が見えるようになった」なんて聞かされたら、少しくらい期待してしまうのも無理はないだろう。
もしかしたらこのまま、記憶が戻ってくれるんじゃないか、なんて。
「ところで潤さん、この物語はどんな終わり方をするんですか?」
「あ、ああ、、、それはね」
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