カメラワーク 2

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「『、、、、はい!』」 その言葉を最後に、映画の撮影は終了した。 企画が始まった時にはまだ夏だったというのに、それがもう去年の話だということが今だに実感できない。 でもまあ、特に大きなトラブルもなく撮影が終わってよかった。あとは編集とスタッフロールを作って、上映会に備えるだけ。 そう思うと、なんだか無性に悲しみが込み上げてくる。心だけでなく体まで冷たいと感じるのは、こちらでは珍しく雪が降ったせいだけではないだろう。 これで、、、終わる。 映画研究部としての活動も、聖栄高校三年生としての活動も、なにもかも。 機材の片づけを済ませて、これからの作業に備えて今日はすぐに解散した。俺でさえ少し疲れを感じているんだ。ほかの部員、、特に一年生にはそうとう堪えるものがあるだろう。 この時間では珍しく一人で家までの道を歩く。俺の指示でみんなを帰らせたのにもかかわらず、当の本人が、部室で一人呆然としていたから。 、、、ふと、コートのポケットに入れていたスマホが鳴り出す。上映会のことでいつでも連絡が来てもいいようにと通知音をあげていたせいか、メールが一通来ただけでもその音の大きさで肩を震わせてしまう。 【留学の話、決まったか?】 その文面に、俺は思わずため息を吐く。口から出た白い空気が大気中に溶け込み、やがて消えていく。その様子をたっぷりと見ながら、俺は凍えた手を無理やり動かした。 【はい】 覚悟を決めたはずなのに、その二文字を送るだけでも時間を要した。それほどまでに、まだ心に突っかかりがあるのだろう。 これでは到底、笑って卒業式に出るなんてできやしない。 フーっと、再び息を吐きだす。さっきよりも長く残った白い息は、だがやはり、跡形もなく消えていった。
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