第4章 上映開始

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ピリリリリ、と甲高い音が響き渡る。 黒板をひっかいたような時とは違う、不快ともいえないがどこか拒絶反応を起こす音。だがそれは確かに固まった私の体を溶かしていき、やがてスムーズに動くようになる。 微睡む意識の中で、かすかに遠くから鳥の声が聞こえた。どこで聞いたかは覚えていないが確かに聞き覚えのあるそれは、確かウグイスの声。 別名「春告げ鳥」や「歌詠み鳥」ともいわれるように春の代名詞ともいえる鳥の一種で、その名前にふさわしい温かさを感じる。 、、、、って、 「、、、、やっば」 手を伸ばしてやっと見えた時計の針は、予定の時間よりもずっと先に進んでいた。ようやく意識が覚醒してきたというのに、みるみるうちに血の気が引いていく。 私が立てた計画では、この時間には家を出て電車に乗っているはずだった。それで少し余裕が出来る。そう思っていたのに、なんでこんな大事な日に限って上手くいかないのだろうか。 急いでベットから飛び降りると、その拍子で床に散乱していた教科書に足をぶつけてしまう。 誰だこんなところに教科書を投げっぱなしにしたのは、と遠回しに過去の自分を呪いながら制服に袖を通していく。一年を締めくくるテストが終わって気が抜けていたのだろうか、今日が一番気を引き締めなくてはいけない日なのに! 「お母さんおはよう!行ってきます!」 返事も聞かずに、私はいつも使っているカバンだけ肩にかけて家を飛び出す。 ここが地元だったら電車に乗り遅れるどころか小一時間遅刻することになるのだが、幸いこの町は電車の頻度が高い。急げばまだ、5分程度の遅刻で済むだろう。 雪解け水が光を反射させる光景に目もくれず、休日ということもあっていつも以上に多い人込みをかき分けていく。ごちゃごちゃの路線図の前を横切り、動く歩道を駆け抜けてようやく電車に乗り込むと、その途端に扉が閉まった。 「あっぶなー、、、、何とか間に合った、、、」 ノンストップで走り続けた体は、目的を達成して止まった瞬間に大量の酸素を欲した。 弾む肩をなだめながら吊革めがけて腕を伸ばす。いつもギリギリに電車に乗っているためか、いつの間にか扉の近くの隅っこが私の特等席になっていた。 景色が流れ始めると、そこでようやく、私の一日が始まったという実感が生まれる。今日は一段と天気が良く、目を凝らせば山の上にある聖栄高校が見えるほど。
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