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「おいおい、遅刻だぞ~?」
「す、すいません!ちょっと寝坊してしまって……」
「真白が寝坊なんて珍しいね~。緊張で眠れなかったとか?」
「それは恵でしょうが……夜中にメッセージ飛ばしてくるんじゃないわよ」
「そうゆう優花だって、すぐに返信くれたじゃんかー」
校門を潜ると、すでに広場のところには全員集まっていた。遅刻してしまったことは申し訳ないが、他の部員たちも寝癖がピョコンとたっていたり欠伸を噛み締めていたり。みんなが同じ境遇だったことと、人をダメにするんじゃないかというほどの変わらない温もりに安心する。そんなことを思いながら部員間での挨拶を済ませると、不自然に遠くに止まっていたバスの中から大きな人影が出てきた。
「おーい、全員揃ったか~?」
「はい!こっちはいつでも出発できます」
どこか聞き覚えのある声に目を凝らすも、逆行と距離のせいで見えずらい。すると恵がそっと「ほら、夏休みにお世話になった店長さん」と教えてくれた。その人がこの学校の、映画研究部のOBだったことも添えて。
双方の準備が終わったということで、私たちはバスへ向かう。持ち物はそれぞれの鞄と博人さんが抱えるDVD一枚だけ。まるでピクニックにでも向かうかのような見た目だが、それに反して、足取りがいつもより重い気がした。
流れのままに窓側の席に座ると、最終確認を終えた潤さんが私のとなりに腰を掛ける。あたかも当然のように行われたその仕草に、それだけで私の心が
が踊る。だがそれと同時に何か違和感を感じる。
撮影が終わってやることがなくなった私とは違い、編集や打ち合わせに追われていた身。やはり疲れが溜まっているのだろうか、その横顔にいつもの明るさはなかった。
「………疲れてるんですか?」
その言葉はバスのエンジン音と、後ろのほうから聞こえた恵の声でかき消された。まったく、あまり寝てないらしいのになぜそんなに元気なのか………
そのまま潤さんは俯いてしまったので、私は肘をつきながら窓の奥に視線を向ける。
そこから見える景色はまるでフィルムのように瞬く間に移り変わり、やがて学校も見えなくなった。
吹奏楽や演劇などとは違って、映画は一度作り終えてしまえば私たちが関与することはない。バスのなかで台本を読んだり、注意されたことを見直す必要がないとはいえバスのなかはやけに静かだった。
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