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女の子からの遊びに誘うメールと、ラブレターのようなものはこっそりと削除した。
こんなことをしていては駄目だ。
家の中に居続けては息が詰まる。
青い煙がわたしに纏わり付いてくる。
十四歳上の夫。
十四歳下の義理の息子。
漲る若さに目が奪われているだけ。
それを恋慕と勘違いしかけている。
そうよね、真奈ちゃん。
少女から乙女に。変身していくしなやかな肢体。
拓巳さんにメールを送りつけてくる煌めく容姿の乙女たちが透けて見える。
何しているの、わたし。やめなくては。思いながらもメールをいじる。
盗み見していることに、気づかれた?
彼はこの家を出て、遠くの大学に進学する。いつの間にか父親と相談して受験、合格手続きを済ませていた。
潮時がきた。
彼は身の回りのものをごっそりと下宿先持っていく。もうここには帰ってこない。宣言しているように。
引っ越し業者と手際よく梱包し、荷物をトラックに運び込んでいく。
わたしの想いは段ボール箱に梱包され損ない、彼の部屋の片隅に転がり落ちていた。
これでいい。義理でもわたしの息子。結ばれることなどあり得ない。今世では叶わぬ夢。胸を焦がすことのない、静かな生活が送れる。
真奈ちゃん、お菓子を焼きましょう。ブルーベリー、クランベリー、ラズベリー。リンゴにシナモン振って、オーブンを熱くして焼きましょう。
わたしの心はもう熱くならない。
お盆休み、お正月。帰省したのは二年ほど。バイトが忙しい。詫びの電話が一本、父親に入るだけ。
でも、大学を卒業したら、こちらで就職するでしょ?
彼は帰ってこない。東京の大会社に就職できた。夫が喜んでいる。
もう何年も顔を見ていない。
これから先も会えない?
顔を見るだけでいいのに。
体がおかしい。まさか。
心当たりのあるわたしは青ざめる。
薬局で購入したもので確かめる。
間違いない。腹の中に居るのは、真奈ちゃんの妹か弟。そして。
彼の妹か弟。
いらない。要らない。
こんな子、いらない。
この世から居なくなってしまえ。
食事が喉を通らない。
真奈ちゃんがわたしの顔を覗き込む。泣きそうな顔で心配する。
いい子。真奈ちゃんは大好きよ。
でも、この子は要らないの。
彼の弟妹なんか、産みたくない!
キリリと下腹が痛んだ。出血した。
わたしが望んだこと。
だけど虚しくて。
切なくて。
もう、夫の傍には居られなかった。
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