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ぐんぐん成長する直前の幼い真奈。
「真奈ちゃん、初めまして。仲良くしてね」
真奈ちゃんが恥ずかしそうに、わたしにぺこりとお辞儀した。
「おかあさん、よろしくお願いします」
真奈ちゃんのお兄さん、拓巳さんがわたしに微笑み、握手を求めてきた。
拓巳さんは高校生。多感な年頃だが、わたしを快く迎え入れてくれた。
拓巳さんと握手した。
ピリッと電流が走った。
わたしは慌てて手を引っ込めた。
拓巳さんも静電気を浴びたようで、手を眺めた。互いに微笑みあった。
精悍で人当たりの良い彼あてに、自宅固定電話に女の子から、引っ切りなしに電話がかかってきた。
彼は携帯電話をまだ持っていなかったからだ。彼専用のパソコンにはメールが大量に届いていた。
わたしは。
大学を卒業して出版社に新卒採用された。男性に負けないように、遮二無二駆けずり回った。
連日、取材ネタをまとめて終電間際に会社ビルを出る。
ある夜、ふっと夜空を見上げた。
街の灯りに霞んでいる星を探した。
ゴシップ記事や風俗ネタを書くために出版社に入ったのではない。文化的事業の端くれに関わっていたかったからだ。
虚しさが胸を突いた。
心の空虚を埋めたくて、男たちを渡り歩いた。埋まるどころか、穴は更に大きくなった。
このままでは都会に押し潰されてしまう。
敗北感とともに、都落ちしていった。
それでも書く仕事からは離れられなくて、転居先のタウン誌のライターを始めた。タウン誌を足がかりにしてラジオ局の構成もするようになった。
取材先で知り合ったのが二人のお父さんだった。誠実そうな人柄がにじみ出ていた。疲れていたわたしには、必要な人と思われた。
彼は妻を亡くして独身だった。
彼は再婚。わたしは初婚。
真奈ちゃんは最初ははにかんでいたが、本当の親子のように懐いてくれた。
真奈ちゃんは物心つく前に母を亡くして、母を知らない子ども。
わたしはまだ子どもを産んだことのない仮初めの母。
二人は本物の母娘だった。
拓巳さんは、大人になりかけている眩しい存在だった。
彼専用のパソコン。触ってはいけない。プライバシーの侵害となる。
けれど本物の母親なら。
交友関係を知っておこうと見る。
理由をこじつけて、メールを読んだ。
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