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身の回りの物をまとめるわたしに、真奈ちゃんがすがりつく。一緒に連れていってと泣く。
夫は穏やかでとても良い人。
連れ子の二人も優しい性格。
いけないのはこのわたし。夫の子を望まなかった。子は母であるわたしを見限った。この世と決別した。
彼の顔を見ているだけでいい。
……それもいけない? 罪なのか。
情緒不安定なわたしを心配した元夫が、わたしの引っ越し先に真奈ちゃんを通わせる。食欲が湧かないわたしに、二人で覚えた手作りパイやケーキを届けにきた。
可愛い真奈ちゃん。けれどわたしたちはもう、縁の切れた赤の他人。兄の面影を持つ姿を見ることがつらくて、つい、言ってしまった。
「もう、ここに来ないで」
すべてを絶ちきりたかった。
それでも縁もゆかりもないこの土地に居続けたのは、ライターとしての仕事で生計を立てられたからだ。
生活に困らないように。
元夫が裏から手を回して助けてくれていた。わかっていて、知らん振りしていた狡いわたしがいた。
いつの頃からか。わたしの携帯電話に迷子メールが紛れ込むようになった。
秋。美しく成長した真奈ちゃんに会った。友だちが居たせいか、それともわたしが居なくても平気になったのか。目線も合わせてこなかった。
何かが胸の奥をチクリと刺した。
腹の底から苦笑いが湧き起こった。痛みを振り切った。
──無性に彼に会いたくなった。
制御できない熱が、体を駆け巡った。
彼の携帯電話はもう繋がらない。メールアドレスも電話番号も変わった。
設定はただ一つ。
パソコンメール。
今も繋がるだろうか。
震える指先でアドレスを表示させる。
文字を打ち込む直前、指が止まった。
わたしとして送れるわけがない。
そして思い出す。あの迷子メール。
緑という名前。引きこもりの高校一年生。学校でも家でも居場所がなくて、つらい、寂しい。
心優しく律儀な彼は、返事をくれた。
繋がるか試すつもりのメールが。
密やかな恋心を育んでいく。
会いたい。ひと目だけでも。
でも。どういう口実を見つけられる? すでに他人だというのに。
否。それ以前の問題として、メールのプロフィール全部が偽りだというのに。
真奈ちゃんの友だちがバイトをしている飲食店。友だちが窮地に追い込まれた。ライターとしての興味が湧いた。身代わりを申し出た。
刻月由依。
なんて面白い子なのかしら。
特殊な力を持っているくせに、おどおどしている。普通でいたがっている。
予想しているのが由依だとバレた。メディアが騒ぐ。わたしはメディアの受け皿となった。由依は東京に呼ばれた。頼りない母親は、娘をわたしに委託した。
この子、使える。
けれどわたしは焦らない。
冬休みは今後の足がかり作り。
こちらでの生活基盤を整えてから、ゆっくり彼に近づいていこう。
再会は唐突だった。
「おかあさん」
彼はわたしをそう呼んだ。
名前を呼んではくれなかった。
少年時代の面影はすでになかった。
闊達な逞しい青年が目の前に居た。
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