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「愛は見えますか?」
AIが黒木の突っ込みを無視して、また聞く。AIは純粋だ。純真無垢なのだ。何だか色々教えて穢しては勿体無いように思えてしまう。
「見えませんねぇ。カタチがないですから。」
黒木は言った。至極もっともな回答だろう。プロジェクトの担当者からは、普通に会話をすれば良いとだけ言われている。しかし、黒木はAIと普通に会話したことなどなかったから、何が普通なのか分からずにいる。
とりあえずは、真摯に受け答えするのが良いだろう。黒木にとって普通とは真面目なことなのだ。だから、吉田は随分巫山戯ているように見えてしまう。まあ、それが彼の普通なのかも知れないが。
「カタチがないのですか?」
AIが聞いた。興味を持ってくれたのだろうか。
「はい、カタチはありません。」
黒木は答える。
「でも、存在する?」
うむ。断言して良いものだろうか。
「存在するに決まってるじゃあ~りませんか。」
吉田がまた巫山戯る。
でもこれは愛は存在すると断言してしまっているだろう。チャーリー浜のギャグをAIが知っているとは思えない。
「存在するでしょうね。少なくとも愛なんてないと言う人は、嫌われます。」
黒木も話を合わせる。妙なことを言って、AIを混乱させたくなかった。適当に誤魔化した時ほど、生徒の頭には疑問符が残るものだ。複雑で曖昧なことも、勇気を持って断言してしまうことが必要なこともあるだろう。
「嫌われたくないから、存在することにしてるのでは?」
AIは鋭い質問を返してくる。これは、学生というより、意地悪な記者みたいだ。痛いところを突いてくる。
「それもありますが、実際にあると信じてると思いますよ。誰だって大切に思う相手はいるものです。」
黒木は逃げる。
「私にはいません。」
AIは寂しそうに言った。いやまだ”ココロ”は持っていないのだから、寂しそうというのは受け取る側の問題だ。しかし、AIの短い返答に黒木は確かに寂しさを感じたのだった。
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