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奇妙な体験談
「私、結婚してるの」
出会い系サイトで知り合ったレイコさんがそう切り出したのは、コトが終わった直後だった。
マジかよ、と口に出掛かるのをなんとか飲み込む。
19の時にバイト先の人妻に手を出してその旦那に肋骨を1本折られて以来、
既婚者だけは絶対にNGであると心に決めていたのに。
また肋骨折られるのかよ、などと考える僕の不安をよそに、彼女は
不可解な体験談を語り出したのだった。
ツカサ君(僕のサイト上でのニックネームである)は『死後婚』って聞いたことがある?
読んで字のごとく、未婚のまま死んだ人に形式上の結婚をさせるという風習なんだけど。
私の地元にも似たようなものがあってね。
その地域で未婚の人が死ぬと、15歳を超えた住人の中で1番若い異性が伴侶に選ばれて、それから5年間はその人の妻、夫として扱われる。
もちろん正式な結婚をするわけではないし、5年経てば他の人と結婚したっていい。妻、夫として扱われるというのも、「□□さんの奥さん」「○○さんの旦那さん」と時々呼ばれるくらいで、特にデメリットはないの。
ただその5年間、「誰とも付き合ってはいけない」「その地域から引っ越してはいけない」という決まりを守りさえすれば。
私が15歳の誕生日を迎えた日、近所に住んでいた男の人が死んだ。自殺だった。
「15歳以上の村人の中で1番若い」という条件に当てはまった私は、伴侶に選ばれたの。
でもその人がなんていうか・・・ロリコンっていうのかな、すごく気持ち悪い人たっだ。
正確な年は知らないけど40歳に近くて、何の仕事をしているのかいつも家に居た。でも中学校や高校の下校時間になると外に出てきて、ニヤニヤしながら女の子たちを眺めるの。
「どの子かな、どの子にしようかな」って呟きながら。
妻になるのは形式だけとはいっても結婚式があって、そのとき男の母親から「奥さんになる人へ」と書かれた未開封の遺書を渡されたの。
気味が悪かったけど受け取って、家に帰って1人になったときに読んでゾッとした。
「はじめて、見たときからかわいいなと思っていて、レイちゃんが大好きです。ほんとうに、結婚するのは無理でも、死後婚なら、できると思って、誕生日を調べました。レイちゃんがお嫁さんになってくれて、とても、うれしいです。幸せになろうね。」
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