第一章 穏やかな日々の影:マルコの話

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第一章 穏やかな日々の影:マルコの話

 ここはこの街唯一の修道院。その薬剤室の中で、私は数人の修道士と共に薬の調合をしていた。  夏の間に収穫してよく乾燥させたハーブは、煎じて飲み薬にする事もあるし、小麦粉や蜂蜜と混ぜて湿布にする事もある。軟膏を作るのにもやはりハーブは欠かせなくて、ハーブを精製して作った香油を薄めて薬にしたりもする。  薬研で細かくした何種類ものハーブを、天秤でそれぞれに重さを量りながら調合していく。こうして作った薬は、病人の世話をする事もある教会に納品するほか、修道院内で病人や怪我人が出た時に使ったりもする。  薬を入れた薬包紙を折っていると昼の鐘が鳴った。そろそろ昼食のようだ。作業をしていた修道士達が手を止め、倚子から立ち上がって部屋を出て行く。私もそれに続いた。  陽が差して明るい部屋の中とは違い、修道院の廊下は薄暗い。目がなかなか明暗差に慣れなかったので、かけていた真鍮の縁の眼鏡を指で動かす。少し位置がずれていたのだろう、正しい位置に戻った眼鏡は私の目にいくらか鮮明になった像を結ばせた。  皆が真っ直ぐ食堂に向かう中、私は修道院の奥へと歩いて行く。一番奥にある部屋では、私の友人が仕事をしているのだ。     
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