1 骨董機巧技師と敏腕執事

1/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

1 骨董機巧技師と敏腕執事

 思い立ったら即行動。それが鉄則である。  リルは工房に散らかった歯車や貴金属、工具を蹴飛ばして、隣接する居間へ入った。 「今日の仕事はもう終わりですか、リル」  問うのは、高身長で神経質そうな眼鏡の男。機械的な言葉だが、彼はそもそも骨董機巧(アンティークロボ)なので機械的なことには違いない。  リルは持っていた工具を、分厚いログテーブルに置いた。そして、そっけなく言う。 「やめた」 「そうですか。では、お茶を入れましょう」 「いや、いい。それよりも大事な話がある」  骨董機巧のジョルジュは首をかしげた。その際、いつもきちんと整えてある髪の毛からぴょこんと一束飛び出す。それをリルが撫で付けようと手を伸ばし、彼を椅子に座らせた。 「それで、話……とは?」  不審にジョルジュが問う。  髪の毛を撫でるリルは、気まずそうな顔だった。かぶっていたカバー付き防塵マスクをテーブルに置き、長い黒髪を後ろへ払う。  そして、きりっと眉を立たせて言った。 「うん。私、隠居する」 「は?」 「だから、隠居するんだって。私」 「それは今しがた聞きました……が、なぜです?」     
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!