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1 骨董機巧技師と敏腕執事
思い立ったら即行動。それが鉄則である。
リルは工房に散らかった歯車や貴金属、工具を蹴飛ばして、隣接する居間へ入った。
「今日の仕事はもう終わりですか、リル」
問うのは、高身長で神経質そうな眼鏡の男。機械的な言葉だが、彼はそもそも骨董機巧なので機械的なことには違いない。
リルは持っていた工具を、分厚いログテーブルに置いた。そして、そっけなく言う。
「やめた」
「そうですか。では、お茶を入れましょう」
「いや、いい。それよりも大事な話がある」
骨董機巧のジョルジュは首をかしげた。その際、いつもきちんと整えてある髪の毛からぴょこんと一束飛び出す。それをリルが撫で付けようと手を伸ばし、彼を椅子に座らせた。
「それで、話……とは?」
不審にジョルジュが問う。
髪の毛を撫でるリルは、気まずそうな顔だった。かぶっていたカバー付き防塵マスクをテーブルに置き、長い黒髪を後ろへ払う。
そして、きりっと眉を立たせて言った。
「うん。私、隠居する」
「は?」
「だから、隠居するんだって。私」
「それは今しがた聞きました……が、なぜです?」
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