1 骨董機巧技師と敏腕執事

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 突然の隠居宣言には、完全無欠な骨董機巧も戸惑うものらしい。突拍子もないリルの発言に呆れを表す。  リルは「こほん」と咳払いし、腕につけていた手袋を取った。さらに、肩からかけていた工具ベルトも外しにかかる。寝るとき以外は肌身離さずにいるのに。  彼女は厳かに、慎重な声を出した。 「あのね、私はそろそろ休んでもいいと思うんだ」 「はぁ。まぁ、休みなく働いてますしね。機巧(わたしたち)よりも」 「そう、働きすぎなんだ。毎日毎日、工房にこもって機巧(ロボ)とにらめっこ。友達と言えば、ジョー、あなただけ」 「友達ではありません。主人と執事。それだけの関係です」  すぐさまジョルジュは突き放した。しかし、リルは聞いちゃいない。 「ジョーと二人きりの生活。もう二十年にもなる。いやあ、長かったなぁ」 「何をとぼけたことを。二人きりじゃなく、つい最近まで三人(、、)だったでしょう」 「まぁ、この暮らしもいいものさ。でもね、それだけじゃあダメなんだよ」 「はぁ……」  話が噛み合わない。ジョルジュはもう言葉を諦めたようで、眉間をつまんで項垂れた。自分の言語能力に自信を失ったことがしばしばあったが、おそらく言語に加えて対話能力まで低いのはリルの方である。  黙るジョルジュに、リルはニヒルな笑いを向けた。     
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