1 骨董機巧技師と敏腕執事

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「要するに、私は仕事をやめるんだ。もうしない。塔から注文がきても、ノエルから時計の修理を依頼されてももう知らない。受け付けない。以上!」 「それは無理な話ですね」  ジョルジュは甲冑腕にはめ込まれた予報時計を見やった。そして、居間に置いてある角ばった金属の、絶対に狂わない(、、、、、、、)正確時計も見やる。現時刻は、12時23分56秒35。  一方、予報時計は13時0分00秒00。ターコイズの盤に、ノエルの名が浮かび上がっていた。 「13時きっかりにノエルが来ます。お茶会がてら、仕事の依頼をしにくるのでしょう」 「断る」  リルも間髪を入れずに返した。こうなったら頑固なリルだ。  彼女は腕を組んで、ブーツで隠した足をログテーブルに投げ出した。ふんぞり返っている。 「絶対にやるもんか」 「ですから、なぜ急に仕事をやめることにしたんですか」  骨董機巧一筋のリルだった。ジョルジュが不思議がるのも仕方がない。  しかし、これには彼女自身もなんと言葉で表せばいいのか皆目分からないのである。しばらく考えた後、リルはゆったりと吐いた。 「……仕事に飽きたから、かなぁ?」 「なぜ疑問系」  極めて的確なツッコミである。  リルは口ごもった。 「特に理由もなく休みたいと仰るのは、無責任ではありませんか」     
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