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「うるさい! やめるっつったらやめるんだ! 主人に向かって口答えとは無礼極まりない!」
さっきは「友達」だと言っていたのに、都合が悪くなれば主人気取りである。
ジョルジュは眉を寄せて「申し訳ありません」と感情のない声を出した。
「やめてよ、まるで機巧みたいじゃないの」
「えぇ、私は骨董機巧ですから」
それはそうなのだが。
なんとも返せず、リルは不機嫌に頬を膨らませた。
機巧技師としての主な仕事は、クロノ都市街の一つ、12番街の工場で働く機巧の世話、都市管理局のシステム調整、中央塔の大時計の世話などなど。あとは新作機巧を開発したり、1番街の大学や都市外への機巧輸入など、注文があれば受け付ける。
「あー……思えばものすごく忙しいことしてたな……」
仕事の一つ一つは特に覚えていられないが、ひとたび工房を出て作業をやめれば、ぽこぽこと記憶の泡が脳内に膨らんだ。
「でも、今まではさ、私の作業は分担されていたから難なく捗っていたんだろうね」
リルは思い出したように言った。その言葉に、ジョルジュの眉が動く。
「つい最近までそうだったのに、忘れていたんですか」
「なんで忘れてたんだろう……あまりにも自然なことだったから、うっかりしてたよ」
リルは苦々しく言った。
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