1人が本棚に入れています
本棚に追加
「妙な話ですね。人間は記憶力が悪い生き物ですが、リルの場合はひどすぎる……急に仕事を辞めると言うし……あぁ、もしかして、一人になったことが原因なのですか」
彼の頭の方が回転が速かった。ジョルジュの指摘に、リルは「あっ」と手を打つ。
「そうかもしれない!」
「ふむ。それは困りましたね」
ジョルジュは顎に手を当てて困った素振りを見せる。
「何せ、リルはもう一人だけですし……私としては呼び名に困らなくて済むのですが……」
「おいおい、失礼なことを言うね。私は私であって、あの子でもあるんだけれど」
「先程まで忘れていたくせに」
意地悪な言動だが、相手は機巧なので仕方ない。
何も返せずにいると、ジョルジュは自動的かつ義務的に予報時計を再び見やった。
「あと数分――6分30秒ほどでノエルが来ます。その時に相談されてはいかがですか」
「相談?」
「はい。元はと言えば、あの革命でリルの意識や体が分裂したのですから、アフターケアをお願いしましょう。なんなら人員も増やしてもらいましょう」
その淡々とした提案に、リルはなんとなく頷いた。そして、首をかしげる。
アフターケアや増員なんかされては、やはり仕事をしなくてはいけないじゃないか。これじゃあ隠居も遠のいてしまう。そのためには、今から来るであろうノエルを追い払うことが先決。
最初のコメントを投稿しよう!