(一)元旦

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 元旦の今日、突然に荷物が届いた。 「元旦早々、ご苦労さまです」  ねぎらいの言葉をかけたけれども、その配達員はニコリともせずに立ち去った。愛想のない男だなと思ったものの、よくよく考えると男だったかどうか判然としない。どちらでも良いさと思いいつも、少し気になった。ひとり暮らしの身だ。気を付けるベきは、病と痴呆だ。都会での孤独死がニュースで流れる度に、明日の自分が見えないことが気に病まれる。夜に目を閉じるときに明日が来るのだろうかと一抹の不安を覚えてしまう。そして朝の目覚めがあれば今日も一日が過ごせると喜んでいる。  届いた箱は、一辺が三十センチほどの立方体で何の表示もない。会社名すらない。判子を押したかどうかすら判然としない。映画が気になったわたしは、封を開けることもなくテレビの前に戻った。甘いミカンを頬張りながら、激しいアクションシーンに見入った。  どのくらい時間が経ったか、何やら玄関先で音がする。気のせいかと思ったが、ガサゴソという音が、数分おきに聞こえてくる。玄関を見やっても、何かが居る気配はない。先ほどの宅配の荷物があるだけだ。  妙なことに気付いた。受け取った時より大きくなっているように見える。面妖なと思いつつも、DVDの映画が気になり腰を上げることができない。目はテレビに耳は荷物にと、神経の疲れる所作に陥ってしまった。 「ゴト、ゴトッ」  大きく音がしては、放っておくわけにもいかなくなった。やむなくプレーヤーの停止ボタンを押して立ち上がった。 [生ものです、お早めにご開封下さい。なお、お取り扱いにご注意を]  驚いたことに、そんな表示があった。受け取った折りには、何の表示もなかった筈だ。恐る恐る封を開けてみると、エアパッキンがぎっしりと詰め込まれている。この梱包はいただけない。製品の梱包作業に従事しているわたしには、とてものことに容認できるような代物ではない。苦情を申し立てようかと思ったが、如何せん送り主不明ときている。 「なんて梱包だ。このエコのご時世に、なんて無駄な梱包をしているんだ」  つい声に出してしまった。ひとり暮らしの今、どうもひとり言が増えてきた気がする。 「ゴシュジンサマ、オハヨウゴザイマス」  突然に、中から人形が飛び出してきた。ゼンマイ仕掛けのような仕草で、ピョンとだ。そして合成音特有の固い声色で挨拶をしてきた。
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