(一)元旦

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 やむを得ず、ぎこちない所作で服を着せにかかった。肩に手を置かせてショーツをはかせ、バンザイをさせてシャツを着せて…。懐かしい思いがこみ上げてきた。幼い息子や娘に、こうやって着替えさせたものだ。不覚にも涙してしまった。 「ご主人さま、申し訳ありません。不快な思いをさせましたでしょうか。服を着るというプログラムがありませんので。苦情申し立てをなさいますか。連絡先は…」  どうにも、人形であることを忘れてしまう。どんな目的で作られたものなのか、うすうす察しがついてきたが、そうは考えたくない。というより、迷惑な話だ。あいつらの悪戯心も、今度ばかりは度が過ぎている。 「さよこちゃんだっけ、一つ聞きたいことがある。分からないなら、答えなくて良い」 「さよこの分かることでしら、どうぞ」 「君を頼んだ覚えがないんだけど、誰かからの贈り物なのかな」  意地の悪い質問かと思いはしたが、聞かずにはいられない。 「淋しいです、さよこは。お忘れになられたのですか。昨年の八月に、懸賞サイトで応募していただけましたのに……」  思いもよらぬ答えが帰ってきた。
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