塚原さん

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魔女が存在するっていう事実はもとより、僕は塚原の口から次々と出てくる言葉の量に圧倒されている。 こてんと首を傾げた姿が可愛かったなんて、もう記憶の片隅に押しやられた。 (誰、これ??) 僕の知る塚原は、大人しくて読書ばかりしている感じの女の子だったのだけれど。 「ちょっと!聞いてますか!??」 僕の意識がそれ始めたことに塚原は、目敏く気づいたらしく、キッと、視線を向けてきた。僕は慌てて背筋を伸ばした。 「はい、はい!聞いてます!」 ホールドアップ。 両手を上げてみれば、「では、続けますよ」とまた、塚原は魔女について語り始める。 まだ、この説明は続くらしい。 ふぅと息をこっそり漏らして、楽しそうに、(_…例えるのならば、クラスの女子の集団がメイクやら何やらの話で盛り上がっている時のような_)語り続ける顔を見た。 クラスで見る彼女とは全然違う。人間誰しも裏表がある、と僕は思っているが、塚原はこっちが素なのではないか。 (塚原は本当はこんな感じの子だったのか) 僕は少し椅子を引き、彼女の話を聞くために改めて楽な体勢をとった。 テキストを持ち、塚原の熱弁はとにかく続く。現代の魔女の苦労や、試験の難しさ、魔女の薬が現代で作ることの難しさ、近年の魔女のイメージやら何やら、とにかく彼女はペラペラと喋り続ける。 話の中で塚原が試験に既に3回チャレンジして落ち続けているという、なんとも言えない事実を知ってしまったが、あえて触れてやらないことも優しさだ…。 寡黙だと思っていた塚原の止まらない語りに、なんだか、家の近くで集まって喋り続けているご近所のおばさん達の姿が脳裏を過ったった。 誰だ、塚原を今ままで、大人しいって言ってたの。…………あ、僕だ。 話し続ける塚原に適度に頷きながら、僕は頭の中で昔読んだ童話の魔女を思い起こす。 有名どころは、毒林檎を作る悪い魔女、だろうか。...ああ、そういえば...何やかんやあってデッキブラシで飛んだ魔女もいたな...僕の記憶の中に魔女が出てくる物語は少ないが、おそらくまだまだあるはずだ。しかし、それはあくまでも物語の世界。フィクションの話だと思っていたが。 それが塚原の話曰く、どうやら現実にもいるらしい。現在進行形で、それを名乗るために勉強中の塚原に僕は現在進行形で熱く、魔女について力説をされている。 悪い、塚原。 熱く魔女について僕がに語ってくれているがあまりの勢いに頭に残っているのは一つだ。 魔女も免許制。 なんとも現実的だな、現代魔女。 魔女は資格だったのか。 名乗ればいい訳では無いとは…。 なんだか、面白いなと思う。 様々なものが時代の変化の中で形を変えてきた。これもきっとその一種なのだろう。 僕はもう少し、彼女の話を聞いてやることにする。 力説する塚原を止められる気がまずしないし、最初に興味本位で話を振ってしまったのは僕だ。いつも教室の隅で大人しく本を読んでいる……たった今、それが魔女試験対策テキストだと判明したが、寡黙な彼女の新たな一面を知れて僕はウキウキしていた。 というか、すごく今更、だけど。 「僕に、そう言う、魔女のこと、言っていいのか?誰かに言いふらしたりするかも……」 「千嶋くん、アイツ魔女の試験受けるために勉強してるってクラスメイトに突然言ったら、その瞬間から、クラスメイトのあなたへの評価は変人になるわね」 塚原、それは現在僕に魔女について熱く語る自分への盛大なブーメランにならないか? 僕は、少しばかり信じてみようと思うけれど。 もしかしたら、僕は全く信じず、塚原に対して変人だと思ったかもしれないじゃないか。 僕の考えを読んだように塚原はニコリと、笑う。 「私、別に千嶋くんに変人と思われようと痛くも痒くもないもの」 「……そーですか」 塚原はまた熱を取り戻したように話を再開した。どんどん話が勢いを増していく。 こんな塚原の姿をクラスメイト達は知らないだろう。 そう思うと、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ僕は彼女のこの姿を知っている…特別ってことに胸が高鳴らないことも……ない。 熱く語る塚原の瞳はキラキラして見えた。 「……ふぅ…」 一息つき、時計を確認する。 怒涛の勢いに気にもとめていなかったが、外から、どこかの部活のホイッスルの音や掛け声が聞こえる。 下校時刻まで30分以上ある。 僕は椅子に深く腰かける。 偶然とはいえ、僕がふった話から彼女の秘密を知ってしまったのだ。乗りかかった船、という言葉は適切だろうか。...まあ、いい。 とにかく、受験勉強中の彼女の気晴らしになるのなら、話を聞いてあげるくらいまぁ、いいだろう。 何より、秘密の共有っていうのは悪くない。 それに僕は免許制の魔女というやつに少しばかり興味を持ち始めている。 話を聞くくらい、いくらでもしよう。 ……だから塚原、椅子の上に立つのをやめろ。
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