鳥の唄

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 フィグは世界に恋をしていた。あまりの美しさに息をする事さえ忘れてしまいそうなその姿を見て、自分の魂を献上したいとさえ思っていた。  しかし世界を覆う天空にて、彼女は形をまだ持っていなかった。"神のような存在である"という、彼女の概念の規模があまりにも大きく、収まる器が世界にはどこにも無かった。  だから蛇と鳩を真似た形をとる。  恋をした世界に住まう者に善悪を知らしめた者と、天の怒りの長雨の終わりを告げた者。  この2者の姿こそが彼女の概念を納めるに相応しく、龍と呼ばれる唯一無二の存在が出来上がる。こうしてフィグは世界に降り立つための"秩序"を手に入れた。  世界に降り立った彼女が歩けば地には薄青い結晶が咲き、羽ばたけば星が瞬く。さえずりは風に乗って大気となり、平穏を約束する。  フィグは世界に惚れきっていた。空を泳ぐ鳥、その上に照る陽や見渡す限りに広がる花、美しいものに静かに胸が熱くなっていた。 「僕の幾千の数に匹敵する賞賛が、幾つあっても讃えきれない。素晴らしき世に幸あらん事を。」  時折フィグは世界に語りかけ、祝福の調を贈る。それは、今に至るまでの全てを、世界というものが生まれ落ちる瞬間とその上で起きた出来事を知る彼女だから、贈る事が出来た幸福だった。  もちろん世界も、フィグが幸福を願っている事を知っている。  フィグへの感謝を忘れない者はフィグへ羊を贈り、雅歌を紡ぐのだ。それが自身を讃える行為である事を理解したフィグもまた祝福の言葉を贈る。  安寧は永らく繰り返され、続くと思われていた。  しかし物語に起承転結があるように、彼女にも、そして世界にもいつまでも平穏が覆う事は無かった。
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