平成のひな祭りの日に

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平成のひな祭りの日に

雪の降るこの地域では3月3日はまだ寒さがしっかりと居座っている。 (あや)は台所で遅めの朝ごはんを済ませ暖房のない冷え込む廊下を通って仏壇のある座敷へとやってきた。 9時頃に母親が着付け教室に出掛けていく物音を彩はベッドの上で聞いていた。妹も日曜日だというのに朝早くから会社へと向かったようだった。 しんと静まり返った座敷に入り仏壇の祖父と祖母に線香をあげ手を合わせた。 祖父は7年前に祖母は5年前に他界した。 彩の心残りはせめて再来月に控えた花嫁姿を二人に見てもらえなかったことである。 平成という元号が終わりを迎える今年に30歳を迎える彩にとっては婚期が遅いという感覚はあまり持てないでいるが、祖父と祖母はそのことをひどく心配していたからである。 厚い雲に覆われた空がゴロゴロと鳴る。 どうやらまた雪が降るようだ。
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