1.ネオ・エイジア編~イチロー・ムナカタの場合~

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荒れ果てたビル群の一角で荒野を見渡す青年がいた。 イチロー・ムナカタというこの青年は、襟足まで伸ばした黒髪、肌は元々色白だが日焼けと汚れで薄い小麦色をしていた。何着もない着用着は廃墟から拾い集めていた。薄汚れた革ジャンは廃ビルの角に引っ掛かり左腹部の辺りが破け、穿き続けているジーンズは左ひざに穴が開き始めていた。 イチローはこの世に本当に自分しかいないのかと、辺りを見渡す。 実はこの行動は毎日の日課だ。いやらしいほどにギラギラした日差しと、心地良いとは決して思いたくないほど爽やかなカラッとした風がイチローの体を突き抜ける。 期待などしていなかった。いや、期待していないふりをしていた。誰もいないのに期待していないふりをしたのは寂しさを紛らわす為のものだ。 目の前に広がる荒野を一台のバイクが走り抜けていく姿を想像する。 この高い空に肉食の鳥が優雅に旋回している姿を想像する。 しかしこの現実はあまりに酷で想像力を打ち消してしまう。イチローの頬を涙が伝う。誰にも届くことのないこの孤独と悲しみを一人抱きしめ右手で涙を雑に拭った。
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