1.ネオ・エイジア編~イチロー・ムナカタの場合~

7/15
前へ
/20ページ
次へ
「皆、考えることは同じだな」 アキラは呆れたようにそう言った。 地下鉄の駅構内には人が溢れていた。階段を降りると切符売り場からプラットホームまでまるで満員電車だった。 時間が経つにつれ不平不満が出て来る。 今は七月。暑さも中々な季節だ。 やれ暑いだとか狭いだとか、疲れた、トイレ行きたい、通してください、痛い、漏れる、漏れちゃった・・・。 不平不満はやがて溢れ出し、罵声が飛び交う揉みくちゃのカオスへと発展していた。 そんな環境下に耐え切れず、一日、二日と時間が経過するにつれ、一人また一人とその場を後にして行った。それは降りて来た階段を登り外に出て行く者もいたし、真っ暗な地下鉄のレール沿いを歩き去る者もいた。 実際に、駅構内の売店にあった僅かな食べ物は一日で底をつき、その後は言うまでも無く正気を無くして行く人々で溢れかえる。 早速、三日目にはいたたまれない緊張感が生まれ、錯乱状態から死を覚悟する者もいた。 イチローが周りを見渡すと、当初いた大人数の人々は減り、通常の地下鉄駅にさえ見えた。 仲間のアキラとケントは二日目に様子を見に外へ出たまま戻っては来なかった。 ここには泣きながら身を寄せ合う恋人たちや、夫婦、家族などがいた。そんな残された人たちも、その後訪れる世界を覆った光に包まれた後、その場所から姿を消していた。 それはほんの一瞬の出来事で、地下にまで溢れたその光は今までイチローが体験したことが無い様な眩さで、たまらずまぶたを閉じ、目を手で覆った。 そして次に目を開いたときには、それ以前の光景がまるで夢だったのではないかと疑ってしまう程に、その場所から綺麗さっぱり消えていた。 駅の構内にはイチロー以外誰もいなかったのだ。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加