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このタイミングで初めてイチローは地下鉄駅の階段を登った。
こんなことならケントやアキラと一緒に外に出ればよかったなんて後悔したけれど、彼らが何処に姿を晦ませたかも分からない現実にその後悔でさえ確かなものではなかった。
外の世界はイチローの想像以上のものだった。階段を登り切った後にある筈の屋根も、周りにあったビル群も、大通りに生えそろっていた木々も・・・何もかも消えていた。ただ何処までも枯れた大地が広がっている。
イチローは何度も周りを見渡した。それは夢なのではないかともう一度目を閉じ、ゆっくり目を開いたがそれは変わらない。この何もない荒野を歩いたとしてはたしてその先に町はあるのか、誰かに出会うことが出来るのか。全く想像が出来ないくらいに何もない。
しかし今、ここに佇み続けていても待っているのは死。
イチローは一歩、また一歩と重たい歩みを進め始めた。辺りに何も無いせいか、今まで以上に夏の日差しはイチローの体にダメージを与え続ける。
どれくらいの時間が経ったのか分からないが、日差しが弱まって来た頃、イチローは地べたに倒れ込んだ。脱水症状だろう、ひどい頭痛の中、意識がもうろうとし、そして遠のいて行った。
誰もいなそうなこの荒野でイチローの心は自暴自棄になり、命を落とすことに抵抗はなかった。しかし数時間後、その思いに反して体を酷い寒さが遅いイチローは目を覚ました。
酷い渇きと体の痙攣。熱にやられたその体を助けてくれる人は居ない。
イチローは震える体を起こし、ふらふらになりながら歩みを進めた。意識は遠のき、重く冷たい足を一歩、また一歩と前に進めた。次第に辺りは暗くなり、イチローは暗闇の中を歩いていた。辺りはただの闇でしかなかった。
乾いた風と風で流れる砂の音。重く冷たくなった足を止めずにいると、イチローの足が何かにぶつかった。
そして目を凝らし、そのぶつかった固く冷たい何かを凝視した。
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