青いぬり絵をあたためて

6/10
前へ
/10ページ
次へ
 プレハブの中は、真っ暗だった。  コザコリさんはその中を進み、お立ち台にも似た腰丈ほどの黒い塊の傍でこちらを振り返った。 「では、第3ブレスコロケーションを始めます」  彼女がそう言うと、塊から低い駆動音が鳴り始め、そして青い光が漏れ出した。私を含め、壁際にいたらしいたくさんの人たちが青く照らし出される。  ーー特定の波動周波数条件下で、時間は離散的に振る舞う。それを構造物に付与することで物質的連続性の枷を外し、離散時間を圧縮させ結合した後に再び連続性を保たせる。いわば時間の海を潜水し、息継ぎ《ブレス》する瞬間にだけ時間を経過させる。通信や移動に天文学的な時間が必要であろうと、それは劇的に短縮される。それが、ブレスコロケーション航法ーー  光は台上から散乱することなく、粘性を持つかのようにたゆたい、やがて人の形を象った。そのまま光が繋ぎ合わされ、衣類や表情に至るまでが詳細に描画されていく。  そして、暗闇の中浮かび上がった青く輝く人は、動き出し、喋り出した。 『定期連絡。第3ブレス担当タニシべ・ミナト。遥かな旅路も、これでようやく半分ですね』  そう言ってミナトは、私を置いて宇宙へ行きやがった張本人は、ニカッと笑った。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加