青いぬり絵をあたためて

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 かつてミナトとした会話が、やけに繰り返される。 「計画じゃあ、320光年を5回のブレスに分割するそうだよ」 「そうすると何年短縮できるの?」 「6年くらいになるんだって! すごいでしょ!?」  彼は自分が成し遂げたかのように、嬉しそうに語った。 「……それで、いつ戻ってくる?」  熱っぽく語る彼を遮るように、私は問いかけた。 「片道それぐらいかかって、惑星を調査して、それから帰ってきてだから……15年、くらい」  グズリと、私の心臓は音をたてた。 「15年、私に待ちぼうけていろって言うの?」 「いや、毎年連絡は取れるから。姿も見られるらしいし!」  心臓はグズグズと音をたて続けた。 「連絡だけ取り続けて、中年になってから再会するの?」 「潜水中はコールドスリープしてて歳は取らないから、大丈夫!」 「私は?」  私の思いは単純だった。 「ねぇ、わかってるの? あなたは変わらないかもしれないけど、私は15年経つんだよ?」 「……わかってる」 「わかってない」  俯く彼に少しだけ後ろめたさを感じたが、止められなかった。 「あなたは何も変わらない。でも、私だけがおばさんになってる」 「僕は、気にしないよ」 「私が気にするの」 「そんな……」 「地球と宇宙で素敵な文通ね。それが15年も続くなんて」 「……僕が帰ってきてから、また一緒に始めようよ」  彼の言葉はほとんど独り言のようで、縋るようだった。 「若いままのあなたと、人生折り返しの私?」  声が、震えた。 「わかってるなら教えてよ。そんな二人になってから、何を始めるって言うの……?」 「……ごめん」  時間短縮の技術は、とてつもなく凄いことなんだと思う。  ミナトたちが帰還しその偉業を知らしめた時、きっと世界中は躍起になって競い出すだろう。その中で彼らは、前人未到の英雄として迎えられるに違いない。私とは違う世界の住人になってしまうのかもしれない。  それなのに、声が聞けるから大丈夫? 姿が見られるから大丈夫?  それだけでいいわけない。  人が人と繋がり続けるためには、もっとその人を近く近くに感じなければいけないと、私は思う。  天文学的時間を人類は克服した? 本当にそうだろうか。私にとっては、15年すら果てしないのに。
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