青いぬり絵をあたためて

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 声をかけられないまま半月が過ぎた頃、ミナトとの通信が途絶えた。 「船内温度基準値下回りました。信号検出微弱!」 「再接続急げ! タニシべさん、応答してください!」  青い光はモザイク状の雑像だけを映していた。たくさんの職員が駆けずり回り、一刻も早い問題解決のために右往左往している。  私は寄る辺なく、雑踏とモザイクを眺め続けていた。 「こちら……タニ……聞こえ……」  ノイズに混じって、ミナトの通信もかろうじて聞こえる。 「絶対に信号を見失うな!」  怒号が響き渡った。  私はぼんやりと考えた。  私たちが見失ったら、彼らはどうなるのだろう?  人類の手が決して届かない所に放り出され、宇宙のどこかを朽ち果てるまで彷徨うのだろうか。それとも、時間と時間の間、この宇宙のどこでもない場所を漂流し続けるのだろうか。  私が死んでも、人類が絶滅しても、地球が寿命を迎えても関係ないみたいな顔をして。  私は想像した。  暗くて冷たい空間に浮かぶ、1隻の船。  船の中では乗組員さえ冷たくなって、暖かいところなんてひとつもなくて。それは棺桶と何が違うのか、私にはわからない。  かつてミナトは笑顔で棺桶に乗り込んで、今の私はそわそわと棺桶の帰りを待っている。もしもこのまま信号を、繋がりを失えば、船は本当に棺桶になるだろう。  未だノイズは混じるものの、青い光はかろうじて人の輪郭を描いていた。彼は、疲れたように何かに座っていた。  私がやるべきことなんて、決まってる。  私はミナトの前に立った。
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